営業部ニュース
新人営業マンのための溶接基礎講座
第9回目は、「造船向け低温用鋼」について解説をいたします。
理科の実験で、液体窒素にバラを漬けると粉々に砕けるものや、凍ったバナナで釘を打つというものをテレビなどで見たことがあると思います。身近なところでは「冷蔵庫に入れたチョコレートが硬く割れ(折れ)やすくなる」というのも、同じ現象です。このような壊れ方を「もろく壊れる」ということから、脆性破壊といいます。
鋼も同じように温度が下がるほど“もろく”なります。これは低温環境下で鋼の粘り(じん性)が低下してしまうからです。低温で使用される鋼材には、その環境下でも“もろくなりにくい”性質、すなわち低温じん性が必要となります。低温じん性の評価は、一般にシャルピー衝撃試験が用いられ、試験温度(℃)と吸収エネルギー(J:ジュール)で表します。
液化天然ガスなどは、一度に大量の貯蔵・輸送ができるように沸点以下の温度で液化されたものですが、低温用鋼はこのための大型容器や設備として使用され、アルミキルド鋼、3.5%Ni鋼、9%Ni鋼、などがあります。図1に各種液化ガスの沸点と使用鋼材の例を示します。
造船関連の低温用鋼は、LPG(液化石油ガス)船、LNG(液化天然ガス)船のタンクおよび周辺船体構造部、冷凍運搬船の冷凍庫など、マイナス40℃以下にさらされる箇所に使用されます。
これらの鋼材は、日本海事協会(略称:NK)の鋼船規則 K編3章にて『低温用圧延鋼材』に分類されており、その主要な規定内容を表1に示します。
表1 低温用圧延鋼材の種類:鋼船規則(NK)K編2024年度より抜粋
各種鋼材の溶接継手には、表2に示す溶接材料の使用区分に適用できる溶接材料の種類が規定されています。さらに、神戸製鋼所のNKの材料認定を取得している主な銘柄および材料記号を表3に示します。
表2 溶接材料の使用区分
表3 主な低温鋼用溶接材料
ここで低温じん性を確保するために注意が必要ないくつかの要因について、その一般的傾向を述べておきます。
溶接金属や熱影響部の低温じん性が問題となる場合、溶接入熱量の管理が必要となります。
溶接入熱量は次式で表されます。
「溶接入熱が大きいということは、一度に大きなビードを着けるということを意味し、逆に溶接入熱量が小さいということは、小さなビードを着けるということを意味する。大きすぎる溶接入熱は母材・溶接金属の冷却速度を低下させ、ミクロ組織の粗大化をもたらす。」
図2のような同じ継手を溶接する場合、入熱が小さい(b)継手のほうがパス数が多くなります。
一般に、パス数の多い継手(小入熱溶接)の方が溶接金属の引張強さが高く、低温じん性も優れています。
このように大入熱溶接の方が高能率で、むやみに小さくするのも能率が低下するという問題があります。性能とのバランスを考えて施工することが肝要です。
一般に低温用鋼は比較的溶接性が良好な鋼と言われており、鋼種や板厚によって一般的に50~100℃程度の予熱が行われます。
しかし、板厚が薄い場合や連続溶接によってパス間温度が高くなりすぎた場合は、冷却速度が小さくなり溶接金属や熱影響部の低温じん性が低下するので、連続溶接は避け過度のパス間温度、予熱温度にならないような熱管理が必要です。
構造物の種類によっては、溶接後に応力除去焼鈍が施されます。
溶接材料の中には、溶接金属の低温じん性を確保するために応力除去焼鈍が不可欠なものがある反面、応力除去焼鈍をすることによって低温じん性が低下してしまうものもあります。したがって、それぞれの溶接材料の特性を十分に把握して使用することが必要です。
溶接電源には交流と直流があり、溶接材料はそれぞれ特定の電源極性に適合するように設計されています。
その中で、被覆アーク溶接棒とサブマージアーク溶接材料には直流で使用できないものがあり、また使用できたとしても、直流では強度やじん性が低下する傾向があるので、事前に確認しておくことが必要です。
溶接に使用するシールドガスの種類は、マグ溶接用として100%CO2と70~90%Ar-残CO2の2種類が、TIG溶接用として100%Arが多く使用されています。
マグ溶接のシールドガスの一般的傾向としては、Arの比率が多くなるほどじん性や作業性が良くなる傾向が見られます。
これは、Arの比率が多くなるほど、溶接金属の酸素量が少なくなり、また溶滴がスプレー化しやすいためです。
ただし、アルゴンガスは炭酸ガスに比較して高価なため、経済性についての事前確認も必要です。
低温用鋼は、溶接継手ごとの確認試験(プロダクションテスト)が要求される場合があるなど、要求の厳しい構造物も多くあります。溶接材料の引合いに対しては、十分な情報と正確な技術知識が必要であり、安易に溶接材料の推奨を行わないよう注意することが重要です。ご不明な点がございましたら、当社までお問い合わせください。
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