我々が日々多くの顧客先へ訪問し、溶接に関するお困りごとを伺いながら巡回している中で、昨今最も耳にするのが〔人材不足〕です。ベテランの溶接者が勇退され、若いオペレータの定着化が難しいとの話を、どの業種でも耳にします。
そんな状況を何とか打開しようと、溶接の自動化が活況になっています。神戸製鋼所の販売する溶接ロボットや、以前からラインナップしている走行台車なども自動溶接の一種と言えます。機種により自動化の程度に差はありますが、人的労力を緩和するだけでなく、セッティングまでできていれば熟練の溶接技術がなくとも安定した結果が得られるというのが自動溶接の良いところであり、〔人材不足〕の状況改善に寄与するところです。
しかしながら、自動溶接だからこそ発生しやすくなるトラブルもあります。その一つが、溶接中でのワイヤの狙いずれです。ワイヤの狙いずれとは、溶接中にコンタクトチップから出たワイヤが瞬間的に振れ、本来の狙い位置からずれてしまう現象を言います。ベテラン溶接者が自分で溶接をする際は、多少ワイヤが振れても瞬時に反応してカバーし、結果には大きな影響が出ないケースが多いようです。しかし、自動溶接の場合は基本的に事前に教示した動きを再現するので、ワイヤが振れるといった不具合事象に対応できません。そのため、狙いずれが発生した結果がそのまま反映され、ビード蛇行や融合不良につながってしまいます。
これを解決する有効な手段が、神戸製鋼所の販売するワイヤ矯正機「AMT-KS」と「AMT-KF」です。
矯正機の役割は、ワイヤに残存する巻き癖・曲がり癖を、真っ直ぐに近い適度な曲がり状態に矯正することです。その効果を動画1に示します。スプール品・パック品それぞれのワイヤ癖が矯正され、適度な曲がりに矯正されているのがお分かりいただけると思います。
このようにワイヤ癖を直すことによって、前述のような狙いずれを防止することができます。
動画1 スプールの場合
動画1 パックの場合
先に述べましたように、矯正機にはAMT-KSとAMT-KFの2種類があります。基本的にAMT-KSがソリッドワイヤ用で、AMT-KFがフラックス入りワイヤ用になります。また、AMT-KSはRタイプとFタイプの2種があり、AMT-KFはRタイプ、Fタイプ、Hタイプの3種がありますので、全部で5種類の矯正機があります。
Rタイプはワイヤ送給装置に直結させるもので、主にロボットの送給装置への取り付けを想定したタイプです。
Fタイプも送給装置に取り付けるものですが、送給装置のスプール取り付け軸に固定するタイプで、主に半自動での使用を想定しています。
Hタイプはパックワイヤ使用時にアローハットに固定するタイプで、ロボットでも半自動でも使用可能です。
また、これらの矯正機は適用ワイヤ線径ごとに調整がされておりますので、ご購入の際はご使用のワイヤ線径をお間違いのないようご注意ください。
これらの種類をまとめたものを図1に示します。
なお、余談ですがAMT-KFのFタイプとHタイプは古くから販売されており、Rタイプのみ新設されましたので、同じAMT-KFでも見た目やサイズ感が異なります。
どの矯正機を選ぶのが良いかについてですが、ワイヤ矯正はできるだけトーチに近い場所で設置した方が効果的です。適正な矯正をかけても、その後で曲がりくねった送給経路を通過してしまうと、新たにワイヤに曲がり癖が付いてしまう可能性があります。可能であればRタイプやFタイプが望ましいと言えるでしょう。
RタイプとFタイプは前述のとおりロボットならRタイプ、半自動ならFタイプが基本ですが、一部Fタイプを取り付けできない送給装置もあります。Fタイプはスプール取り付け軸に固定するタイプですので、軸自体が回転する送給装置には取り付けができません。その場合はRタイプをご使用ください。(取り付け方は後述)
それらをつけることができない場合はHタイプをご使用ください。HタイプはAMT-KFのみですので、ソリッドワイヤであってもAMT-KFのHタイプをご使用ください。AMT-KFはフラックス入りワイヤがメインではありますが、ソリッドワイヤでも効果を期待できますので、お試しください。
取り付け方はタイプごとに同一です。実際に取り付ける様子を動画も交えてご説明します。
①送給装置のボルト部に矯正機を取り付けナットで固定する。
②当社ロボットの場合は、ブラケットがあるので取り付ける。
*ブラケットがない場合は省略
③パックからワイヤを通してコンジットチューブからワイヤが飛び出した状態にし、ワイヤを矯正機と送給装置に通した後、コンジットチューブを取り付ける。
動画2-① Rタイプ取り付け
動画2-② Rタイプ取り付け
動画2-③ Rタイプ取り付け
①矯正機後ろのローラ部品固定ボルトを2つ外し、ホルダを取り付けてボルトを締め直す。この際、後で高さ調整ができるように、力を入れたら動かせる程度の締め付けにしておく。
②矯正機を送給装置の軸に取り付けて矯正機の高さ・角度を送給ローラと合わせた後、ボルトを締め直す。
③矯正機の奥行・角度を送給ローラとあわせ、ホルダのボルトを締める。
動画3-① Fタイプ取り付け
動画3-② Fタイプ取り付け
動画3-③ Fタイプ取り付け
①アローハット上部のガイドパイプを外し、カバーフィルムも外す。
②アローハット上部の4つの孔に合わせて保護プレートとAMT-KFをセットし、付属のボルト・ナットで固定する。この際、下からボルトを通し、上からナットを締めると良い(振動によってナットが緩み、自然に落ちて紛失する事象を防止するため)。アローハットについていたガイドパイプを戻し、AMT-KFを挟んでナットで固定する。
③AMT-KFの上にコンジットチューブを取り付け、ワイヤを通す。
動画4-① (横)Hタイプ取り付け
動画4-② (横)Hタイプ取り付け
動画4-③ (横)Hタイプ取り付け
①六角ボルトを緩めインレットガイドを取り外す。
②専用アダプタを取り付け、六角ボルトを締める。
③アダプタに矯正機を取り付け、ナットで固定する。
動画5-① ダイヘン半自動取り付け
動画5-② ダイヘン半自動取り付け
動画5-③ ダイヘン半自動取り付け
①プラスボルトを緩め、ワイヤガイドを取り外す。
②専用アダプタをナットで固定する。この際、アダプタのくぼみが正面に来るように調整し、その後プラスボルトを締める。
③アダプタに矯正機を取り付け、ナットで固定する。
動画6-① パナソニック半自動取り付け
動画6-② パナソニック半自動取り付け
動画6-③ パナソニック半自動取り付け
矯正機は、取り付け向きが決まっています。これを間違えると適正な矯正ができず、逆に変な曲がり癖(動画7参照)が付きます。取り付け時は、ワイヤの通過する方向に注意してください。Fタイプ使用時にご使用の送給装置の向きと矯正機の向きが合わない場合は、ローラ部品の後ろのボルトを外して組み替えてください。(動画8参照)
AMT-KSやAMT-KFは、1つでちょうど良い矯正がかかるようになっています。そのため、矯正機の2個付けや送給装置付属の矯正ローラと組み合わせたりするのは推奨しません。むしろ無駄な送給負荷が増えてしまい、送給不良の要因になってしまいますので、ご注意ください。取り外せない送給装置付属の矯正ローラなどは、完全に緩めて負荷をかけないようにしてください。
動画7 矯正方向間違え
動画8-① Fタイプ組み換え
動画8-② Fタイプ組み換え
動画8-③ Fタイプ組み換え
今回は、増加している自動化需要にお役に立てる矯正機の種類と取り付け方をご紹介致しました。自動化は、施工方法が確立するまでが大変ですので、トラブルの類に限らずお困りごとがありましたらお気軽にご相談ください。