技術レポート-2 (Vol.60 2019-4)

【 新型アーク溶接ロボット】ARCMAN™A40の紹介


五十嵐 大智,磯山 智一
(株)神戸製鋼所 溶接事業部門 技術センター 溶接システム部

1. はじめに

図1 ARCMAN™A40外観
図1 ARCMAN™A40外観

5月より小型アーク溶接ロボットARCMAN™A40(図1)の販売を開始しました。これまでお客様から高い評価をいただいてきた従来機ARCMAN™SR(以下SR)の後継機である、新製品ARCMAN™A40(以下A40)についてご紹介します。

当社のアーク溶接ロボットARCMAN™シリーズは、中厚板分野(建設機械、鉄骨、橋梁、鉄道車両等)を主なターゲット市場として、これまで数多くの溶接システムで採用されてきました。溶接システムを構築する際、アーム長の異なる4機種から溶接システムに適したロボットを選択します。図2にARCMAN™シリーズの機種構成を示します。中厚板分野での溶接ではワーク(溶接対象)が大きく、ロボット単独の動作領域ではワークの溶接箇所すべてをカバーできないことが多くあります。図3に溶接システムの一例を示します。ロボットを搭載する移動装置と、ワークを最適な溶接姿勢に位置決めするポジショナを組合せて、ワークの大きさや形状に適した溶接システムを構築しています。特に、大型のワーク中央部に溶接部位がある場合、小型ロボットがワークの上方向からアプローチする「天吊りシステム」が有利であり、これまで多くのお客様に採用されてきました。小型の従来機SRは天吊りシステムに適したアームサイズのロボットであり、装置の設置スペースは小さく、かつ、装置の高さをクレーン下に収めるというニーズに応えられるロボットとして評価されてきました。


図2 ARCMAN™シリーズの機種構成
図2 ARCMAN™シリーズの機種構成
図3 従来機SR搭載のシステム事例
図3 従来機SR搭載のシステム事例


2. ARCMAN™A40の特長

A40の主な特長を表1に記します。なお、各項目に記載されている表記は、下の意味を表しています。

【 UP 】:SR(従来機)から機能向上している。

【New】:SR(従来機)にはない新しい機能、特長となっている。


表1 ARCMAN™A40主な特長

項目 SR A40 メリット
New トーチケーブル処理 外配 S1軸部に
内蔵
トーチケーブルの干渉低減
UP 上腕部(S3軸)の動作範囲 140° 260° 逆エルボ姿勢が可能、適用範囲拡大
UP 可搬質量 6kg 8kg 大電流MAGトーチも搭載可能
New コントローラ CA型 CB型 CPU処理速度アップ、センシング時間短縮
UP 教示ペンダント 白黒 カラー アイコン&タッチパネルによる
直感的な教示ペンダント操作
その他 ティーチング軌跡の流用が可能


(1)天吊システム向け機能の向上

①トーチケーブル処理【New】

従来機SRを搭載した天吊りシステムにおけるトーチケーブル処理を図4に示します。従来のケーブル処理はバランサーをロボット旋回部近傍に設置し、トーチケーブルがロボット動作に追従するようにしていました。そのためロボット姿勢によってはトーチケーブルがロボット旋回部に巻きつくことやトーチケーブル(バランサー)がワークと干渉することで溶接姿勢をとることが難しいという課題がありました。その課題を解決するために、A40ではS1軸部にトーチケーブルを通しロボットアームに添わせる構造としています(図5)。ロボット旋回時はトーチケーブルがS1軸部を通っていることでロボットに巻きつくことがなく、かつロボットアームにトーチケーブルを添わすことでワークとの干渉を低減できます。これにより適用性向上の可能性が拡がります。

図4 SRケーブル処理
図4 SRケーブル処理
図5 A40ケーブル処理
図5 A40ケーブル処理


②上腕部(S3軸)の動作範囲【UP】

A40では上腕部(S3軸)の動作範囲を拡大し、上腕部(S3軸)がロボット後方まで折り曲がる「逆エルボ姿勢」をとることが可能となりました。

図6は天吊りシステムでのワークへのアプローチの例です。左が逆エルボ姿勢で、右が逆エルボ姿勢と同じロボット位置でSRでとることができる従来のアーム姿勢です。

逆エルボ姿勢がとれることで干渉回避手段の選択肢が増え、移動装置よりも動きの速いロボットでアプローチすることができサイクルタイム短縮の可能性が拡がります。

図6 天吊りシステムでのワークへのアプローチの例
図6 天吊りシステムでのワークへのアプローチの例


(2)中厚板溶接に適した仕様

①可搬質量【UP】

A40はロボット可搬質量をSRの6kgから8kgにアップしました。表2に搭載可能な溶接トーチ種類を示します。これにより従来からのタンデム溶接に加え、従来はトーチ質量が重く搭載不可であった大電流MAG用トーチを搭載することができるようになり、高電流溶接を実現するための選択肢が拡がります。


表2 搭載可能な溶接トーチ種類

ロボット種類 溶接トーチ種類
シングル タンデム 大電流MAG用
A40(新製品)
SR(従来機) ×

○:搭載可能 ×:搭載不可


②コントローラ【New】・教示ペンダント【UP】

中厚板溶接のための機能を多数搭載したCBコントローラと接続します。

CBコントローラの主な特長は下記の通りです。

・高性能 :CPU処理速度アップによるセンシング時間短縮、タクトタイム短縮

・高機能 :溶接自動条件の機能向上、生産の見える化支援

・簡単操作:カラー表示に加え、アイコン&タッチパネルによる直感的な教示ペンダント操作

・その他 :衝突検知機能、多言語対応、軽量化

なお、CBコントローラの詳細については、ぼうだより 技術がいどライブラリー技術レポートVol.57 2016-4「【新型コントローラ】CBコントローラの紹介」をご参照ください。


3. おわりに

主に中厚板分野向け天吊り溶接システムに搭載して特長が活かせる新製品ARCMAN™A40について、従来機ARCMAN™SR からの 変更点を中心にご紹介しました。A40は他にも ご紹介したいところはたくさんあります。詳細は当社営業担当にお声掛けいただきますようよろしくお願いします。



PAGE TOP