解説コーナー | 溶接レスキュー隊119番

すみ肉溶接用フラックス入りワイヤの使い分け


1. はじめに

「フラックス入りワイヤの採用を検討しているが、銘柄が多すぎて何を使えば良いのかわからない。」

我々がお客様からお問い合わせを受けている中で、このようなお話をいただくことがあります。フラックス入りワイヤ(以下FCW)は、そのフラックスの配合を調整することでソリッドワイヤ以上に多種多様な特性を持たせることができるため、軟鋼~490MPa級用だけでも多くの種類がラインナップされています。今回は、その一部となりますが、お客様のお仕事に合わせてベストなFCWをお使いいただくために、すみ肉溶接用FCW4銘柄の使い分けについてご説明致します。

2. ワイヤの紹介

①FAMILIARC™ MX-Z200

神鋼のすみ肉溶接用FCWと言えば、[F]MX-Z200が代表的なワイヤになります。[F]MX-Z200の最大の特長は耐ピット性です(*注 ピット…ビードの表面まで達し、開口した気孔欠陥)。一般的なFCWの中ではもっとも耐ピット性に優れ、造船や橋梁などで多用されるプライマ(一次防錆塗料)が塗布された鋼板の溶接などに用いられています。


②FAMILIARC™ MX-Z50F

図1 フランク角概略図
図1 フランク角概略図

ビード外観・形状とスラグはく離性の向上を図り、アーク感にこだわって作られたのが[F]MX-Z50Fです。水平すみ肉溶接でのビード形状がフラットでフランク角(図1参照)も大きいため、ビードの際のスラグまで取れやすくなっています。そのため、溶接後に塗装やめっき処理をされているお客様から「塗装後のトラブルが少ない」と評価されています。


③FAMILIARC™ MX-Z200MP

基本的な特性は[F]MX-Z200と同じですが、こちらは多パスの水平すみ肉溶接用に改良されたFCWで、[F]MX-Z200と比較しスラグの密着性を向上させています。多パスの積層途中でスラグがはく離しないため重ねたビードの揃いが良く、仕上げ後にスラグを1度に除去することができ、ビード表面にスパッタが付着していない美麗なビード外観が得られます。


④FAMILIARC™ DW-50BF

一般的なFCWの水平すみ肉溶接では、1パスでの最大脚長は7~8mm程度が限界であり、それ以上を求めるとアンダカットやオーバラップを招きます。しかし、[F]DW-50BFは最大で10mm程度の脚長を、アンダカットなどが生じることなく1パスで溶接することが可能です。


3. 耐ピット性比較

4銘柄を耐ピット性の良い順に並べると次のとおりになります。

(優) [F]MX-Z200=[F]MX-Z200MP>[F]MX-Z50F>[F]DW-50BF(劣)

ご参考までに、[F]MX-Z200・[F]MX-Z50F・[F]DW-50BFの3銘柄で比較したデータを表1に示します。このデータでは耐ピット性に劣る[F]DW-50BFにピットが発生しています。しかし、もっとも優れる[F]MX-Z200でも絶対に「発生しない」わけではなく、母材表面状態や溶接条件(電流・電圧・溶接速度など)次第ではピットが発生することもありますのでご注意ください。

また、[F]MX-Z50Fは[F]MX-Z200と比較すれば劣るものの、[F]DW-Z100などのスラグ系ワイヤよりは耐ピット性に優れるため、「スラグ系のような平坦な外観が良いが、ピットで困っている」という方には有用です。

銘柄 [F]MX-Z200 [F]MX-Z50F [F]DW-50BF
発生数 0 0 1

*注1 N=2 の平均値
*注2 スタート・エンド各100mm をのぞく400mm 間にて評価

表1 表面欠陥の発生数の一例


4. ビード断面形状比較

4銘柄を脚長6mmで溶接し、それぞれのビード断面を写真1~4に示します。写真で比較しますと、[F]MX-Z200・[F]MX-Z200MPに比べ、[F]MX-Z50Fは形状がフラットでフランク角が大きいことが分かります。また、[F]DW-50BFも大脚長でなくとも形状がフラットで、綺麗なビード外観が得られています。

脚長6㎜でのビード断面形状比較
写真1

写真1

写真2

写真2

写真3

写真3

写真4

写真4

脚長6㎜でのビード断面形状比較
写真1

写真1

写真2

写真2

写真3

写真3

写真4

写真4


5. 多パス溶接性

4銘柄それぞれにて2層3パスで脚長12mmの水平すみ肉溶接を行い、その様子を動画1~4に、ビード外観写真を写真5~8に示します。

[F]MX-Z200はやや凸形のビード形状になるため、多パスの水平すみ肉溶接にはビードを重ねやすく好適です。[F]MX-Z200MPは[F]MX-Z200と同様の重ねやすさを有し、さらに多パス施工においてもスラグが途中ではく離せず美麗なビード外観が得られるので、多パスのすみ肉溶接にもっとも適したワイヤと言えます。[F]MX-Z50Fと[F]DW-50BFはビード形状が平坦(フラット)になりやすいので、多パスの水平すみ肉においてはビードを綺麗に重ねるのがやや難しくなります。外観写真で比較してみると、[F]MX-Z50Fと[F]DW-50BFはビード重ね部の仕上がりが若干凹んだようになっているのが見て取れます。


2層3パス/脚長12㎜のビード外観比較
写真5-1

写真5-1

写真6-1

写真6-1

写真7-1

写真7-1

写真8-1

写真8-1

写真5-2

写真5-2

写真6-2

写真6-2

写真7-2

写真7-2

写真8-2

写真8-2

2層3パス/脚長12㎜のビード外観比較
写真5-1

写真5-1

写真5-2

写真5-2

写真6-1

写真6-1

写真6-2

写真6-2

写真7-1

写真7-1

写真7-2

写真7-2

写真8-1

写真8-1

写真8-2

写真8-2


2層3パス/脚長12㎜の溶接の様子
[F]
DW-50BF
1パス目

動画1-1

2パス目

動画1-2

3パス目

動画1-3

[F]
MX-Z50F
1パス目

動画2-1

2パス目

動画2-2

3パス目

動画2-3

[F]
MX-Z200
1パス目

動画3-1

2パス目

動画3-2

3パス目

動画3-3

[F]
MX-Z200MP
1パス目

動画4-1

2パス目

動画4-2

3パス目

動画4-3

6. 大脚長性

4銘柄それぞれにて1パスで脚長10mmを狙って水平すみ肉溶接を行い、その様子を動画5~8に、ビード外観写真を写真9~12に示します。映像では[F]DW-50BFもビードが少し垂れているようにも見えますが、それは溶けたスラグの挙動で、写真を見ると実際のビードは綺麗な形状になっているのがお分かりいただけるかと思います。それに対し、他の3銘柄は無理に大きな脚長を狙った影響で、でき上がったビード外観は下板側がオーバラップになるか、上板側がアンダカットになっています。

[F]DW-50BFの大脚長性は、脚長を大きくつけてもアンダカットが発生しにくいということでもありますので、「7mm程度の要求が多いが安定してアンダカットのない溶接がしたい」という方にもお試しいただきたい銘柄です。ただし、前述のとおり、他銘柄と比較すると耐ピット性はそこまで高くないのでご注意ください。

また、[F]DW-50BFを用いても10mm程度までなので、それ以上の脚長が必要なときは多パス溶接に切り替え、[F]MX-Z200MPの使用をおすすめします。

1パス/ 10㎜脚長狙いの溶接の様子とビード外観比較
写真9

写真9

動画5

写真10

写真10

動画6

写真11

写真11

動画7

写真12

写真12

動画8


7. 使い分け

ここまでの情報をもとに、用途に適したFCWを簡単に選定できるチャートを作成しましたので図2に示します。

あくまでも今回の4銘柄の中での選定ではありますが、ご参考いただければ幸いです。

図2 すみ肉溶接用材料の選び方選定表
図2 すみ肉溶接用材料の選び方選定表


8. おわりに

冒頭でも記述しましたとおり今回ご紹介したすみ肉溶接用4銘柄はごく一部であり、FCWにはもっと多くの種類があります。それぞれの特長を考慮し、皆様のお仕事にベストなワイヤをお選びいただけば、さらなる効率化が期待できます。ぜひともいろいろな銘柄のFCWをお試しいただきたいと思いますので、ご不明な点などございましたらお気軽にご相談ください。


※文中の商標を下記のように短縮表記しております。
FAMILIARC™→[F]
地村 健太郎


コベルコ溶接テクノ(株) CS推進部 CSグループ 
地村 健太郎


お知らせ

「神鋼溶接サービス株式会社」は、創立25周年を迎えるにあたり、神戸製鋼グループの一翼を担い、またお客様のご要望にプロ集団ならではの独自の視点でお応えしていくとの思いをこめ、社名を「コベルコ溶接テクノ株式会社」に変更致しました。(2020年10月1日付)
これからも、「溶接・接合」に関わるさまざまな提案を通じ、「ものづくり」を支える「お客様の身近なパートナー」へと進化してまいります。


URL:https://www.kobelco-kwts.co.jp

*住所、電話番号に変更はございません。



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