神鋼の低水素系被覆アーク溶接棒と言えば、FAMILIARC™ LB-47やFAMILIARC™ LB-52Uが聞き慣れた銘柄でしょうか? 低水素系溶接棒は、溶接金属中に残留する水素量を低減させる目的で開発され、耐低温(遅れ)割れ性に優れた溶接棒です。主な適用用途としては厚板部材や高強度部材などの溶接、適用鋼種としては低温割れが発生しやすい各種高張力鋼や中・高炭素鋼および特殊鋼などの溶接に用いられています。また、JIS検定やボイラー溶接士免許などの受験時や、全国溶接競技会でも使用されるなど、その信頼性は高く評価され、長年に亘り幅広い業種のお客様にご使用頂いて参りました。
今回、この低水素系被覆アーク溶接棒を、JIS検定や溶接競技会においてさらに使いやすく、通常の業務でも作業効率をさらに向上させた、棒長の長いタイプを追加致しましたので、ご紹介致します。
神鋼の低水素系被覆アーク溶接棒の棒長は、銘柄にもよりますが3.2φや4.0φでは、350mm・400mmが主要銘寸となっておりました。JIS検定などの受験時では、4.0φを使用しても条件や運棒速度などによっては、初層の溶接を棒一本では鋼板全長の溶接が行えないケースもあり、お客様から「もう少し長い棒が欲しい」との声を頂戴しておりました。そのような背景のもと、お客様のニーズにお応えし棒長450mmを新たにラインナップに追加致しました(表1)。主に、JIS検定や溶接競技会向けとしてご使用されることが多い銘柄に450mmを追加しておりますが、「棒長が長いと扱いづらい」というお客様には、現在ご使用頂いている銘寸も存続しますのでご安心ください。
現状の棒長の製品と比較して、450mm棒の最大の特徴と優位性を写真や動画を用いてご説明致します。
【450mm棒の特徴】
N-2V<板厚:9t、裏当て金なし>の初層溶接を3.2Φ棒で使用した場合、一本の棒で鋼板全長の溶接が可能で棒継ぎが不要となります。但し、従来の棒長だと棒が足らなくなるケースもあり、棒継ぎ箇所が裏曲げ試験範囲内となった場合、不合格になるリスクが高まることが課題とされておりました。動画は、FAMILIARC™ LB-52U:3.2Φ棒長450mmの作業です(動画①)。JIS検定のN-2Vを想定し、表2の溶接条件にて施工しており、1本の棒で初層を仕上げていることがご確認頂けます(写真1)。(※但し、開先条件によっては、棒1本では足りなくなることがあります。)通常品では、150mmの試験板のうち120mm程度の辺りで棒が足りなくなることがあります(写真2)。従来はこれを補うために、試験板中央部分(もしくは前半部分)で棒継ぎを行います。図1に、JIS検定試験の曲げ試験位置を記載しておりますので、停止位置をご確認ください。
アークスタートが困難な低水素系溶接棒では、棒継ぎは大変高度なテクニックであり、この作業を避けることができるのは大変大きなメリットと言えます。
項目 | 値 |
---|---|
ギャップ | スタート側 2.4mm エンド側 2.6mm |
ルートフェイス | 1.0mm |
使用材料 | LB-52U(3.2Φ) |
初層溶接条件 | 90A |
運棒方法 | 進行方向に前後の ウィービング |
全国溶接競技会では近年、薄板課題の板厚が3.2tから4.5tへ変更されました。棒長が400mmでは足りるか足りないかギリギリとなり、外観劣化の原因や溶着金属不足でアンダカットが発生することもありました(動画②)。
しかし、棒長450mmを使用すれば、棒長を気にすることなく最後まで安心した溶接施工が可能となり、綺麗なビード外観が得られます(動画③)。
今回は、低水素系被覆アーク溶接棒に追加した棒長450mmについて説明しました。実際のJIS検定時や溶接競技会で是非ご使用頂きますよう、よろしくお願い致します。この他にも、アークスタート性の向上を図った先端加工棒(P加工)もラインナップとして取り揃えております。アークスタートの比較を動画でご覧ください(動画④、⑤)。(※競技会では先端加工棒の使用を禁止されている地区も多いのでご注意ください。)
これからも、お客様のご要望に沿った商品をご提供できるように励んで参りますので、お気軽にご意見・ご要望をお寄せください。
また、我々神鋼溶接サービス CS推進部CSグループでは、お客様の溶接に関する技術相談や溶接指導なども承っておりますので、是非ご活用ください。