鋳鉄とは、鉄に2.14 ~ 6.67%の炭素(C)を含有した合金です。炭素を2%以上含有させることで、湯流れ性が良く鋳型の細部にまでなじむという性質が得られます。しかし、炭素を多く含有させたことで、溶接施工時に割れや気孔欠陥などの溶接欠陥が発生しやすく、一般の圧延鋼材と比較して溶接のむずかしい母材です。
鋳鉄は鋳物に用いられており、鋳物の溶接=鋳鉄の溶接というイメージが強いと思います。当社CSグループにも「鋳物を溶接するが [P] CI-A1で大丈夫ですか?」というお問い合わせを数多くいただきますが、鋳物には数多くの種類があり、その種類によっては溶材選定や施工方法などが大きく異なります。溶接の前に、鋳物の種類の確認をよろしくお願いいたします。
*ぼうだより技術がいど Vol.511 溶接レスキュー隊119番で鋳物の種類とそれぞれの特徴、鋳鉄と鋳鋼の見分け方などを解説しています。
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鋳鉄の溶接は非常にむずかしい溶接です。基本的に溶込みも浅く、母材との「なじみ」もあまりよくありません。
そのため、開先角度を大きめにとる、補修溶接の際には溝の底部に丸みをつけるなどの配慮が必要です。また、開先加工時は必ずグラインダーなどの機械的な加工を施し、アークエアガウジングは避けてください。
鋳鉄の溶接は、とても割れやすいといわれています。
その原因の1つは溶接金属の収縮応力です。そこで収縮応力を軽減するために、「ピーニング」という作業を行います。ピーニングは、ビードごとに溶接終了後すぐに先の丸いハンマーなどで、ビードの波がなくなるまで軽くたたく作業です。ピーニングを行うことが、割れの防止につながります。
ピーニング法施工の5カ条 |
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◎1回のビード長は約50mm以内 |
◎ストリンガービードで溶接をする |
◎溶接後、ただちに行う |
◎ビード波形が無くなるまで行う |
◎飛石法、対称法などと併用する |
鋳鉄の溶接は、割れを防止するために細心の注意が必要です。普通の溶接のように、一本の被覆アーク棒で100㎜や200㎜もの長いビードを引くことは割れの原因となります。
そのため、ビードの長さ約50㎜でアークを切ってピーニングを行い、またアークを出すということを繰り返して溶接を行います。このような、面倒な作業が必要なのが鋳鉄の溶接です。
運棒方法
これまで何度も触れたように、鋳鉄の溶接は割れやすいため、どうすれば割れを防止できるかが課題となります。
予熱も、割れを防止するための大事な作業です。予熱を行うことによって、溶接部の硬さをゆっくり下げる効果があります。
なお、予熱温度は使用する被覆アーク棒の種類により異なります。
各種鋳鉄に対する被覆アーク棒の選び方と予熱温度
鋳鉄の種類 | 品名 | 予熱温度 ℃ |
母材とのなじみ | 母材との色調 | 継ぎ手効率 | X線性能 | 溶接金属の機械加工性 | 熱影響部の機械加工性 |
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ねずみ鋳鉄 | [P]CI-A1 | 100~300 | ○ | △ | ◎ | ○ | ◎ | ◎ |
[P]CI-A2 | 150~350 | ◎ | △ | ◎ | ○ | ○ | ○ | |
[P]CI-A3 | 350~400 | ◎ | ◎ | ○ | ○ | △ | △ | |
可鍛鋳鉄 | [P]CI-A1 | 100~300 | ○ | △ | ○ | ○ | ◎ | ◎ |
[P]CI-A2 | 150~350 | ◎ | △ | ◎ | ○ | ○ | ○ | |
[P]CI-A3 | 350~400 | ◎ | ◎ | ◎ | ○ | △ | △ | |
球状黒鉛鋳鉄 | [P]CI-A1 | 100~300 | ○ | △ | ○ | ○ | ◎ | ◎ |
[P]CI-A2 | 150~350 | ◎ | △ | ◎ | ○ | ○ | ○ | |
[P]CI-A3 | 350~400 | ◎ | ◎ | ◎ | ○ | △ | △ |
*注) ◎ 優れている ○ やや優れている △ 劣っている
*心線:[P]CI-A1=純Ni線、[P]CI-A2=55%Ni線、[P]CI-A3=純鉄線
※文中の商標を下記のように短縮表記しております。 → [P] |