二相ステンレス鋼溶接部は、溶接時の加熱冷却過程でフェライト相とオーステナイト相のバランスが変化し、図11)および図22)に示すとおり、耐食性や機械性能に影響を及ぼすことが知られており、規格などでフェライト量の範囲が規定されています。
フェライト量測定は、従来から幾つかの推定方法および測定方法が採用されており、大きくは①顕微鏡組織による方法、②組織図による方法、③磁気的な機器による方法にわけられます。以下に、それぞれの特徴について概説します。
なお、フェライト量には、FNとフェライトパーセントの2種類の単位が用いられています。前者のFNは、フェライトナンバーと呼ばれ、永久磁石と試験片との間の磁性による吸引力をある標準値との対比によってフェライト量として規定するものです。単位にFNを用います。後者のフェライトパーセントは、金属組織中のフェライト量を百分率で表したものであり、単位に%を用います。以上のとおり、FNとフェライトパーセントは、その定義は異なり、必ずしも一致はしません。
本法では、試験片を研磨およびエッチングし得られたミクロ組織を400 ~ 500倍の観察倍率で光学顕微鏡観察し、組織全体に占めるフェライトの存在領域の面積比率からフェライト量を算出します。図3に示すとおり、観察視野内に格子線を引き、格子点の総数に対するフェライトに該当する格子点数の割合によってフェライト量が求められ、フェライトパーセントで表されます。この方法は点算法と呼ばれ、例えばASTM E5623)などに規定されています。
点算法は、従来から人の目で行われ、長時間を要するだけでなく、人的要因による偶然誤差を誘発するおそれがありました。そこで、当社では、二相ステンレス鋼のフェライト相を選択的に着色するエッチング法を採用し、連続撮影可能なデジタルマイクロスコープと画像解析法を組合せることで、迅速かつ高精度で広範囲のフェライト量測定を可能としました。『ぼうだより 技術がいど』Vol.502の試験・調査報告コーナー(デジタルマイクロスコープを用いる溶接金属の観察・撮影)に、その詳細が述べられており、ご参照いただければ幸いです。
本法では、溶接金属の化学分析値からニッケル当量(Nieq:ニッケルと同等の効果を表すオーステナイト生成元素の指数)およびクロム当量(Creq:クロムと同等の効果を表すフェライト生成元素の指数)を計算し、その値を組織図に当てはめてフェライト量を推定します。様々な組織図が提案されていますが、例えばJIS Z31194)には、Schaefflerの組織図、DeLongの組織図およびWRC(Welding Research Council)-1992組織図が採用されています。一例として図4にWRC-1992組織図5)を示します。
DeLongの組織図では、フェライト量が18FNまでを対象としているのに対し、Schaefflerの組織図およびWRC-1992組織図は、二相ステンレス鋼の範囲を含む高フェライト組織までを対象としています。WRC-1992組織図では、オーステナイト生成元素であるNをニッケル当量に加えられており、クロム当量からSiが、Ni当量からMnが削除され、Cuがニッケル当量に加えられています。近年、二相ステンレス鋼溶着金属のフェライト量の推定には、N量を考慮したWRC-1992組織図が広く用いられています。
なお、フェライト量の単位には、Schaefflerの組織図ではフェライトパーセントが、WRC-1992組織図ではFNが、DeLongの組織図ではその両方が採用されています。
本法は、試験片のフェライト相は磁性を示すのに対し、オーステナイト相、炭化物、シグマ相および介在物は磁性を示さないことを利用しフェライト量を求めます。具体的には、被膜計法や磁気誘導法などが採用されています。
被膜計法とは、装置に付属の永久磁石と試験片との間の磁性による吸引力がフェライト量に対応することを原理としています。厚さが既知の非磁性体が被膜された標準試料(炭素鋼)と永久磁石との吸引力をあらかじめ測定しておくことで、磁石と試験片との吸引力を非磁性被膜の厚さに換算でき、FNを求めることができます。
磁気誘導法は、フェライト量によって磁気誘導が変化することを利用しています。試験装置に付属の測定用端子を試験片に当て、それに内蔵された励磁コイルに電流を通じると、フェライト量に応じて検知コイルに電圧が誘起されます。この電圧を計測して試験片中のフェライト量を測定します。試験時の様子は図5のとおりで、実施工現場などで広く用いられている方法です。
二相ステンレス鋼のフェライト量測定について、顕微鏡組織による方法、組織図による方法および磁気的な機器による方法を紹介しました。それぞれ測定原理は異なるため、同一の試験片を用いて測定した場合でも、例えば、磁気誘導法とWRC-1992 組織図で得られたFNの相違(図66)参照)や、顕微鏡組織による方法と磁気誘導法によるフェライトパーセントの相違7)が報告されているとおり、得られる結果は必ずしも一致はしません。また、測定対象範囲や測定精度なども異なり、目的に応じて適切に方法を選択する必要があります。
当社では、上記に大別し概説した3つの方法に加え、電子線後方散乱回折(EBSD)法によるフェライト量測定や、例えば、オーステナイトおよびフェライト生成元素の濃淡を捉えることを目的とした電子線マイクロアナライザー(EPMA)による元素マッピングなどにも対応しており、お客さまの目的に応じて最適な測定方法を提案いたします。
最後に、本稿がフェライト量測定にて皆様の一助となれば幸いです。ご相談がございましたら、お気軽に神鋼溶接サービスまでご連絡ください。
<参考文献>
1) | T. Ogawa and T. Koseki: Metallurgical investigation of weldments in nitrogen-enriched duplex stainless steel, Proc. of "Welding and Performance of Pipelines" TWI London, Nov. 1986, Paper 10 |
2) | 池田 哲直:二相ステンレス鋼の溶接,溶接技術,2月号(2011),p.72-78 |
3) | ASTM E562-11: Standard Test Method for Determining Volume Fraction by Systematic Manual Point Count |
4) | JIS Z 3119 (2017): オーステナイト系及びオーステナイト・フェライト系ステンレス鋼溶着金属のフェライト量測定方法 |
5) | D.J.Kotecki et al: WRC-1992 Constitution Diagram for Stainless Steel Weld Metals: A Modification of the WRC-1988 Diagram, Welding Journal, Vol.71 No.5 Page.171-s-178-s (1992) |
6) | 渡邉 博久:スーパー二相ステンレス鋼溶接材料,溶接学会誌 第80巻,第2号 (2011),p.6-10 |
7) | A. Putz et al: Methods for the measurement of ferrite content in multipass duplex stainless steel welds, Welding in the World Vol.63 No.4 P.1075-1086(2019) |