神鋼溶接サービス株式会社では、溶接金属組織の観察を受託業務として行っております。フェライト、オーステナイト、マルテンサイトなどといった金属組織をエッチングによって可視化し、光学顕微鏡を用いて観察しております。その中には、ただ組織写真の撮影を行うだけではなく、組織の画像を解析することによって、その金属がもつ特性の定量化を行うメニューもございます。
溶接金属の組織は「溶接金属」「熱影響部」「母材」といった非常に不連続的な組織形態を呈しています。また、溶接金属の中にも、溶融した金属が固まったままの状態の「原質部」や、固まった後にさらに熱を受けた「再熱部」など、組織の形状が違う箇所が見受けられます。
これらの様々な部位の金属組織を観察するためには、まずはマクロ観察で全体の観察を行った後、観察が必要な位置をその都度拡大して観察する必要がございました。
今回紹介する技術は、当社が導入いたしました連続撮影型デジタルマイクロスコープによる、溶接金属における大面積の連続観察・解析技術です。この装置は、普段金属組織の観察に使用する光学顕微鏡の進化版ともいえる装置であり、何百枚もの顕微鏡撮影を自動化、観察時間を大幅に短縮し、より広範囲での撮影・解析結果をご提供できるようになりました。
本報告では、溶接金属における大面積の連続観察・解析技術の事例を2例ご紹介いたします。
今回紹介する方法は、デジタルマイクロスコープを用いてミクロ写真を連続的に合成し、大きな視野の組織写真を提供する方法です。イメージを図2に示します。赤枠の中で多数の高倍率の画像を撮影・連結することによって、1枚の画像でありながら、溶接金属、熱影響部、母材それぞれで拡大した後も鮮明な画像を見ることができます。
この連続撮影を行うことによって、広い視野の写真をお客様自身のパソコンの上でお好みの箇所を拡大し、あたかも光学顕微鏡観察を行っているような感覚で組織観察を行うことができます。従来は観察位置や倍率を細かくご指定頂く必要がございましたが、その必要もなくなり、効率的な金属組織観察が可能となります。
次に、数値解析をセットにした事例として、二相ステンレス鋼溶接部のフェライト量解析を紹介いたします。
二相ステンレス鋼は耐食性が高く、近年幅広く利用されている鋼材です。その耐食性や低温靭性に影響する指標として「フェライト量」が用いられており、通常は約40~50%の領域である必要があります。しかし、溶接部については、母材の希釈や温度履歴などの影響によって、フェライト量に偏りが生じてしまいます。
断面組織の観察によって、このフェライト量を測定することができますが、従来の方法では数十視野を選択し、その中の平均を算出することしかできませんでした。今回の方法では、大面積(約470視野)の連続観察および解析を行うことによって、より信頼性の高いデータを得るとともに、マッピング解析による画像化によって非常に見やすくわかりやすいデータを提供することが可能になりました。
図3に示す赤枠内で475枚を撮影し、それぞれの視野で画像解析処理を行い、フェライト量を測定した結果を図4に示します。色が濃い部分がフェライトであり、画像中の色の濃い部分の割合がフェライト量となります。
上記の解析結果をコンター図にすると図5のようになります。図5では、色の濃淡によってフェライト量の大小が一目瞭然となり、ボンド部付近にフェライト量の高い箇所があることがわかります。従って、この方法は、溶接部の健全性を評価するためのスクリーニング調査手段として有効といえます。
この画像解析技術はフェライト量測定の他にも、ステンレス鋼のσ相面積率測定などでも行うことができますので、大面積での組織解析のご相談がございましたら、一度当社までお問い合わせください。