学生のころはつまらなかった講義、あのころ、もっときちんと聴いておけばよかったな……。そう感じることこそ、私たちが経験を積み、成熟したことの証かもしれない。私たちを取り巻く世界は、若いころに想像していたよりもずっと複雑だ。自分には関係ないと思っていた事柄が、長い道のりを行くうちに、自分の人生に交わってくることもある。
そんな時こそ「学びなおし」の出番だ。学びに遅すぎるということはなく、今この時に必要な知識を、その都度、最新の状態で自分にインストールしていけばいいだけのことである。ビジネスマンの読書は、そのためにあると言ってもいい。さあ、読書を通じて「あの学問」と再会してみよう。
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過去の史実と現代の経済問題とは、一見無関係のようでいて、実は大いに学ぶべき点がある。歴史は、考えるヒントの宝庫だ。なぜなら歴史上の施策には、すでに結果が出ているからである。どのような原因・理由がどんな結果に結びついたのか、それを分析して理解することは、現代のビジネスマンにとっても大きな意味がある。
経済学の基本から最先端の経済トピックスまでを、過去の史実を紐解きながら、気鋭の経済学者が解説。「ビジネスのヒント」と「教養」を一気に身に付けよう。
昔の人々は、一体どんな風に働いて、何に喜び、また何に悩みながら暮らしていたのだろうか。時代も文化も違い、生活様式も現代人とは大きく異なる人々に思いを馳せるのは難しい。だが、案外、人間の行動の根本的な動機は、今も昔も大きくは変わらないかもしれない。たとえば向上心や探求心、あるいは競争心や金銭欲、時には正義感や恋愛感情……。
本書の前半で、筆者は経済学における重要な視点として、「人はインセンティブで動く」ことを解説している。
インセンティブ設計とは、「相手のモチベーションを刺激して何らかのノルマに関してその気にさせるための工夫」を意味します。
経済学は、集団(社会あるいは組織)の行動を分析対象とします。人々がどんな理由でどんな行動を取る傾向にあるのか、インセンティブに着目して制度設計を考えます。(P63)
現在、注目を広く集める経済トピックスのひとつに「働き方改革」が挙げられるだろう。組織の効率化と、そこで働く個人のインセンティブについて論じるために、筆者が例示するのは、徳川吉宗の享保改革だ。
1716年(享保元年)、徳川幕府の八代将軍職に就いた吉宗にとって、就任直後の急務は、財政難に陥った幕府財政の立て直しだった。
本書にも、当事者同士の示談を促す「相対済令(あいたいすましれい)」によって、町奉行が取り扱う金銭訴訟件数を縮小したこと、公文書の整理とアーカイブ化を図り、業務内容のマニュアル化を進めたことのほか、吉宗のコストカット施策がいくつか紹介されている。
だが、何といっても享保改革の本丸は、財政を担当する勘定所の組織改革だ。ただし、吉宗の狙いは人員や歳出の削減ではなく、官僚機構の成果を引き上げることのほうにあった。たとえば、有能な人物の知行高を、役職在任中のみ上乗せできると定めた人事法「足高(たしだか)の制」は、旗本クラスの武士にインセンティブを与え、モチベーションを引き上げるための措置だった。
徳川吉宗の享保改革は、人件費カットを主眼とする支出削減ではなく、むしろ人件費については金銭的インセンティブを積極的に与えるものでした。人件費カットではなく、取引コストのカットにより組織の効率化が進められたのです。(P213)
改革の名のもとに、数々のコストカットを実施する中でも人件費を堅持した点は、まさしくインセンティブ設計を意図したものだろう。組織と個人の新しい在り方を模索している現代の日本人にとっても、示唆に富んだエピソードだ。
日本史解説を楽しんで読み進めながら、経済トピックスについての知見もインプットできる、ユニークな一冊。歴史に隠されたヒントを手に入れよう。
現代の物理学は、「常識」を捨て去ることで進展してきた。たとえば、天上世界と地上世界は同じ法則によって動いていることを明らかにしたニュートン。時間や空間が誰にとっても同じものではないことを示し、世界の見方を変えたアインシュタイン……。
本書では、近代物理学の誕生の経緯、そして物理学に大きな革命をもたらした量子論と相対論の成り立ちを概観。物理学とは、常識に対する挑戦である――。その思考法は、日々の仕事や生活にもヒントを与えてくれる。数式・図表を用いない、物理学入門者のための一冊。
大学で教鞭をとる筆者は、「物理学を嫌っている学生は、ほぼ例外なくわけのわからない計算をさせられたという苦々しい思いを持っている」と、現状を嘆く。もしかすると、皆さんの中にも、はい、私もです!と手を挙げたくなる人がいるかもしれない。
だが、物理学は本来、美術や音楽と同じようなものだと思う。美術や音楽は目の前にある絵画や聞こえてくる音の美しさを楽しむものだが、物理学の場合は、この世界の存在そのものの美しさを楽しむものなのだ。(P29)
創作する才能がなくても、絵画や音楽の美しさは万人に開かれた楽しみだ。それと同様に、数式の計算技術がなくても物理学の美しさを楽しむことはできる、と筆者は言う。計算は、あくまでも道具のひとつにすぎない。物理学の本質は「自然界に対する洞察」にあるという。
本書は、近代物理学が発展する過程で成立した主な理論の数々と、それらが成立した経緯を、歴史に沿ってわかりやすく解説してくれるものだ。個別の物理学者の奮闘のエピソードも興味深いが、これらを通読してみると、物理学の発展の歴史においては「目に見える世界への懐疑」と「常識に対する挑戦」が、何度も繰り返されてきたことがわかる。
たとえば、古くは中世ヨーロッパのカトリック教会の教義と真っ向から対立した、ガリレオ=ガリレイの地動説。万有引力の法則と運動の三法則によって、天上世界と地上世界の区別を取り払い、人間中心の世界観から脱却する契機となったニュートン力学。そして、時間と空間を、誰にとっても共通のものから「計測する人によって異なる、相対的なもの」へと変えた、アインシュタインの相対性理論……。いずれも、当時の常識を根底からひっくり返し、以降の世界の見方をがらりと変えてしまった偉大な発見だ。
これら偉業の数々には、ひとつ、共通点がある。何がパラダイム・シフトにあたるのか、後世、研究と実証が進むまでは判明しなかったという点だ。現代物理学においても、この状況は同じである。
科学の基礎研究は、性急に答えを求めて成果が得られるような種類のものではない。革新的な理論が突如として得られたように見えても、それは地道な研究の積み重ねという丘の上に咲いた花だ。そこへ至るためには、多種多様な試行錯誤、暗中模索が必要不可欠なのである。(P255)
世界の本当の姿に迫ろうとした先人たちの思考の過程をたどるのは、まるで、現代物理学に至る道のりを、長い時を超えながら追体験するかのような読み心地だ。初学者でも物理学の「美しさ」の一端に触れることができる名著。ぜひ、構えずに手を伸ばしてみてほしい。
教科書は、その見た目だけでなく、内容も時代とともにどんどん変化している。それと同時に、私たちの知らないうちに、世間の常識も塗り変わっている。たとえば、世界史上で活躍した偉人「マガリャンイス」とは誰のこと? 太陽系にある惑星の数はいくつ? ひらがなの「そ」の字、どうやって書くの?
いまの教科書を眺めてみると、大人たちにとっては「へえ!」と思わされる発見がいくつもある。ということは、知らず知らずの間に、私たちと、子どもや年若い部下との間には、“常識” の世代間ギャップが発生しているということだ。イマドキ教科書の最新事情を知って、最新“常識” とのギャップを解消しておこう。