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低水素系被覆棒をアークスタートすると、スタート部にブローホールが発生する傾向があります。これは、フラックスの融点の高い、低水素系被覆棒の本質的な短所です。これは、溶接者の技量で欠点をカバーすることができます。
この方法が「バックステップ法」です。右図のようにスタート箇所の20~30mm前方にアークを発生させて、少し後戻りしてから前進します。この方法によりスタートブローホールはほぼ防止できます。
被覆棒を溶接線方向に一直線に溶接したビードを「ストリンガービード」と呼びます。一方、溶接棒をジグザグに運棒し、幅広いビードを置くことを「ウィービング」と呼びます。ウィービングの幅が広すぎると、ブローホールや融合不良の原因となります。そのため、被覆棒を動かす幅は棒径(心線の径)の3倍までと言われています。棒径4.0mmでは、12mmがウィービング幅の最大値です。
ここでいう幅とは、ビードの幅ではなく運棒の幅なので、ビードの幅は4倍程度となります。
溶接材料メーカは、棒径ごと、溶接姿勢ごとに適正電流範囲を推奨しています。
たとえば、イルミナイト系溶接棒の4.0mmでは、下向姿勢で120~180Aとなっています。この溶接電流範囲であれば、良好な溶接部が得られます。
ところが、実際の現場では上限をオーバーしていることもあります、強すぎる電流は、ブローホールやアンダカット、スパッタなどが発生しやすくなります。注意しましょう。
溶接棒を動かす方向には、右図のように「前進法」と「後退法」があります。
マグ溶接の場合は、この2つを使い分けますが、被覆アーク溶接の場合には前進法を使うことはまずありません。
前進法で溶接すると、スラグ巻込み、ビード外観の乱れ、ブローホールの発生などが起こります。
それぞれの溶接姿勢における適正な溶接棒の保持角度は、右図のとおりとなります。
溶接棒の保持角度を寝かせすぎると、必然的にアーク長が長くなってスパッタも多くなり、ビード外観も悪くなります。
常に正しい保持角度を保てるように、日ごろから訓練しましょう。
溶接を始める際に、もっとも苦労するのがアークスタートです。最初のうちは溶接棒が母材にくっついてしまい、アークスタートができないものです。
アークスタートのコツは「マッチを擦るように」です。溶接棒先端で母材面を溶接方向に軽くこすってアークを発生させます。