KOBELCO書房 第10回

「雑談力」を高める!

誰とでもすぐに打ち解けることができる人、一緒にいて会話が途切れることのない人は、一体、何が優れているのだろうか。人柄? 話術? ――― そうではなくて、必要なのは「雑談力」。巧みな雑談は、コミュニケーションの質を上げ、あなたを取り巻く人間関係を変えるだろう。

一口に雑談といっても、ちょっとした挨拶にお天気の話、といった当たり障りのない話題から、ニュースや趣味など、少し掘り下げて語り合ってみたい話題まで、そのカバーする範囲は非常に幅広いものだ。簡単なようで、実は奥が深い「雑談」の世界。ここはひとつ、達人の技から学ぶような心持ちで、本に向き合ってみたい。

仕事も人間関係もうまくいく、最強のスキル

『会話がはずむ雑談力 ―10秒でコミュニケーション力が上がる』

(齋藤 孝/著)ダイヤモンド社 2017/1/14
『会話がはずむ雑談力 ―10秒でコミュニケーション力が上がる』

シリーズ累計50万部超え、「雑談力」という言葉を世の中に浸透させたベストセラー『雑談力が上がる話し方』のシリーズ最新作。仕事や商談の現場でも、会話上手は「できる人」「コミュ力が高い」と評価される。夫婦や友人、ご近所さんとの人間関係も良くなる。雑談力があればどんな場所でも生きていける、まさに「最強のスキル」なのだ。

「知らない人とは何を話していいかわからない」、「気の利いた返しができない」、「何気ない会話は苦手」という人たちのための方策を示す、「雑談力」最新の定番書。

本書の前作「雑談力が上がる話し方」が出版されたのは、2010年。その翌年、2011年といえば3.11、東日本大震災によって、私たちの日常生活の「あたりまえ」が根底から揺らいだ節目の年である。あのとき、いつもの生活から一変して、見知らぬ人も含めた避難所での共同生活に投げ込まれた人々がいた。非日常の状況下で、人々の心を癒したものは「何気ない日常会話」であり「ちょっとした雑談」だった。

中身のない、結論もない、何気ない話をちょっとだけして、「じゃあまた明日」と別れの言葉を交わす。そして明日も同じように「おはよう」と声をかけ、同じように何気ない会話が始まる。

私たちに人と人とのつながりをもたらし、強く生きる力を授けてくれるのは、こうした何気ない日常です。(P7)

「たかが雑談」。だが実際のところ、私たちが日頃、他人とやりとりする会話の大部分は「雑談」である。意味のある会話=例えば会議での議論や用件の連絡、プレゼンテーションの質疑応答など、はっきりとした意義や目的のあるやりとりではなく、どちらかといえば、中身のない会話=雑談を介してこそ、私たちは周囲の人々との関係性を繋いでいる。

本書の中で、筆者が挙げる「雑談力が上がるルール」とは、「中身がないことに意味がある(だから誰とでも話せる)」、「結論はいらない(『白黒つけない』から傷つけない)」、そして「サクッと切り上げる(『長引かせない』から後を引かない)」の三つだ。

特に「自称・話し下手」という方こそ参考にしたいのは、「話し上手」と「雑談上手」は別物という考え方だ。場を和ませるための雑談においては、自分は聞き役に徹し、相手に気持ちよく話してもらうことも手腕のうちだという。

雑談において大事なのは「質問する」という行為そのもの。

どんな話題に対してもライトな質問を出せること、詳しくない話やよく知らない話題になったときでも何かしら質問して話を広げられることが重要なのです。(P153)

議論の場とは違って、ここで必要とされるのは、必ずしも「鋭い質問」ではない、ということも頭に入れておきたい。質問は、あくまで話を広げるための節目に過ぎないのだから「ちょっとした質問」で構わない。むしろ「素朴な質問」のほうが、かえって相手の心のハードルを下げてくれるかもしれない。

雑談に必要なのは「話術」なんて大仰なものではない。相手への気遣いと開かれた心があれば、どんな相手とでも雑談を通じて繋がることができる。気負わず、がんばりすぎず……、だが、確かな勇気をくれる一冊だ。

話し方で、知性がバレる!?

『教養バカ わかりやすく説明できる人だけが生き残る』

( 竹内 薫/著、嵯峨野 功一/編集)SB 新書 2017/2/7
『教養バカ わかりやすく説明できる人だけが生き残る』

世の中は、空前の教養ブーム。ところが、教養人がもてはやされる一方で、身近にこんな人はいないだろうか? 知識だけは豊富で、何でも知っているように感じられるけれど、実際に話してみると残念な人。著名人のコメントをそっくりそのままコピペして、自分の考えのように発言する人。これらの人々は、一見すると教養人のようだが、話してみると「おもしろみ」がない…。

真の教養人になるためには、話し方にこそツボがある! 多くの著書執筆やTV出演をこなすサイエンス作家・竹内薫氏が、話し方と「わかりやすさ」の秘密を解き明かす。

言葉は、便利なツールだ。たとえば「昨日、海で犬と遊んだ」と人に話したとき、現実の海や犬がそこに存在しなくても、私たちは言葉によって相手と思い出話を共有することができる。だが、想像してみてほしい。「もし、実際に遊んだ犬はチワワなのに、相手がブルドッグを思い浮かべていたら?」。

自分の脳内の「絵」と、相手の「絵」を近づけることこそ、わかりやすさのコツであり、具体的で描きやすい言葉で説明することが大切なのです。(P32)

誰しも、懇切丁寧に説明したことが伝わらず、徒労に終わった経験が一度や二度はあるだろう。これは、相手に「適切な絵を描かせる」ことに失敗しているからだ。

子どもに難解な言葉を使っても、新入社員に業界用語を使っても、通じないのは当然のことだ。一方で、相手がプロなら専門用語を用いたほうが正確に伝わるし、話も早い。何かをわかりやすく話したいなら、私たちは相手によって言葉選びを大きく変え、相手の想像力に訴える必要がある。これが、わかりやすさの正体だ。

語彙力は、他人に語りかけるときのわかりやすさの源泉であるとともに、自身の思考パターンの幅でもある、と筆者は述べている。私たちが頭の中でものを考えるときも、結局は自分が使いこなせる範囲の言葉を使うしかないのであって、思考の幅は、知っている語彙の範囲内に規定されてしまうからだ。これはつまり、語彙が多ければ多いほど、ひとつの物事に対して多角的な見方ができるということでもある。

私たちが知識の幅を広げ、ものの見方を増やすために、具体的に取り組むことのできる方法として、筆者は「文理融合」を勧めている。

教養人とは、バランス感覚が優れている人です。

バランス感覚とは、知識が偏っていないということ。「私は文系だから」「俺は根っからの理系だから」などと思い込んで、違う分野の知識を入れることを拒むことこそ、教養バカのはじまりです。(P134)

もちろん、馴染みのない分野に挑めば、勝手が違って戸惑うことも多いだろう。だが、「わからない」ことも決して無駄ではない、と筆者は言う。わからないということは、自分の問題点・弱点が明確になるということだ。「わからない」は、さらに学んで知識を広げるための起点にもなる。

本書終盤には、少しドキッとするような問いかけがある。「あなたのコミュニケーションは『伝えた』ですか? それとも『伝わった』でしょうか?」というものだ。さて、あなたは教養バカか、それとも真の教養人か? 厳しい時代を生き残るために、今こそ「わかりやすさ」という武器を手にしよう。

『誰と会っても会話に困らない
雑談力 サクッとノート』

(櫻井 弘/監修)永岡書店 2014/9/15
『誰と会っても会話に困らない<br>雑談力 サクッとノート』

「初対面の相手と話が弾まない」、「会話の途中に訪れる沈黙が怖い」、「苦手な人とは話がうまくできない」など、雑談にまつわる悩みを抱えている人は多い。本書は、そんな人のための、実践的な定番シチュエーション&フレーズ集だ。

本書の指南は、まず「あいづちを打ち」、「質問をし」、「ネタを振る」ための定番のフレーズからスタート。さらに「初対面」、「沈黙」、「苦手な人」など、雑談の場面で陥りがちなピンチに合わせて「話が続くマジックフレーズ」も列挙されている。前もってシミュレーションしておけば、思わず言いよどむような状況でも、はじめの一言がサクッと言える! 雑談が苦手な方でもすぐに相手と打ち解ける! あなたの即戦力となってくれる、手引きの書。

(文:石田祥子)

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