溶接における極性とは、溶接電極と母材の電位関係を表します。サブマージアーク溶接では交流・直流の2種類が使われており、直流はさらに電極プラス(以下、DCEP)と電極マイナス(以下、DCEN)に分類されます。図1に示す通り、交流では1周期中に電極プラスと電極マイナスが切り替わるのに対して、直流では電極の極性が時間的に変化せず一定となります。
交流電源は、多くが可動鉄心方式であり比較的安価で取扱いが簡単なことと、電力消費や維持費が少なくてすむことから、日本国内において広く使用されています。また、アーク現象では、直流電源と比較して磁気吹きが発生しにくいという特長があります。
直流電源は、アークが安定しやすく低電流でも溶接作業性が優れています。DCEP・DCENのいずれかを選択できますが、DCEPが広く使用されています。
サブマージアーク溶接においては、交流・直流のどちらの極性の電源も用いることができますが、溶着量や溶接金属の機械的性質に影響を与える要因となるため、それぞれの極性の特性を理解することが重要です。
溶着量は、極性やフラックスの種類によって変化します。図2(a)に示す通り、DCENではDCEPよりも溶着量が多くなり、交流はそのほぼ中間となります。電極マイナスではワイヤ先端から電子が放出されますが、電子が放出される際には発熱が生じると考えられており、常に電極マイナスであるDCENではワイヤ溶融量が増加することで溶着量が最も多くなります。
図2 極性の影響
ワイヤに対するフラックスの消費比率を図2(b)に示します。交流やDCENに比べて、DCEPでは消費比率が大きくなる傾向が認められます。つまり、極性がDCEPの場合、溶接金属の化学成分はフラックス組成の影響を受けやすいといえます。例えば、SiO2を多く含む溶融フラックスを用いた場合、表1に示すように、交流と比べて溶接金属中のC量が減少し、Si量、O量が増加します。このような溶接金属の化学成分の変化は、溶接金属の機械的性質に大きく影響を与えることが知られています。
極性 | 溶接金属の化学成分(mass%) | |||
---|---|---|---|---|
C | Si | Mn | O | |
交流 | 0.07 | 0.30 | 1.61 | 0.067 |
DCEP | 0.05 | 0.35 | 1.67 | 0.098 |
※フラックス:FAMILIARC™ MF-38 ※ワイヤ:FAMILIARC™ US-36
そのため、溶接材料の特にフラックスは極性に応じて設計されており、同じ要求性能であっても、交流とDCEPで用いられる溶接材料は異なります。要求性能を満足するためには、極性に合わせたフラックス、ワイヤの組合せを採用することが不可欠となります。