営業部ニュース

新 銘柄のおはなし-9
ソリッドワイヤ


今号より被覆アーク溶接棒から溶接ワイヤの銘柄のお話へと移ります。かつては被覆アーク溶接棒が溶接材料の中心でしたが、1980年代後半よりガスシールドアーク溶接に主役の座が移ります。高効率で連続溶接が可能なガスシールドアーク溶接ワイヤは自動化・ロボット化の流れの中で、現在では、ソリッドワイヤとフラックス入りワイヤを合せ溶接材料の80%弱を占めます。

まずはソリッドワイヤより始めたいと思います。

1. MG-XX

日本における炭酸ガス溶接用ソリッドワイヤの歴史は、昭和31年に関口春次郎教授が炭酸ガス溶接法を考案、昭和34年に松下電器産業殿(当時)がフィリップ社と炭酸ガス溶接法の技術契約を結び、製販売を開始しました。

神戸製鋼がFAMILIARC™ MG-50、FAMILIARC™ MG-50Tという独自の銘柄で販売を開始したのは昭和43年のことです。溶接は溶接材料が溶けて母材に移行する訳ですが、その溶けた金属が移行する過程で空気中の酸素・窒素が入ってくると、固まったときに良好な金属が得られません。被覆アーク溶接棒ではアーク熱によって心線の外側に塗られた被覆剤(フラックス)が分解してガスが発生、溶けた金属を覆って酸素や窒素の混入を防ぎます。ガスシールドアーク溶接では被覆剤の替わりに直接炭酸ガスやアルゴンなどで溶接金属を保護(シールド)し、酸素や窒素の混入を防止しています(図1)。

図1 炭酸ガスアーク溶接の概略図

ガスシールドアーク溶接の最大の特徴は高能率です。直径1.2mm、1.6mmといった細い線に200~400Aの高い電流を流すため、早く溶けます。能率が良くて仕事が早く終わる・自動化・ロボット化が可能といった大きなメリットには勝てません。

FAMILIARC™ MG-50、FAMILIARC™ MG-50Tの販売が始まった昭和43年はFAMILIARC™ TB-43が開発された年でもあります。

MGのMはMETALの頭文字、GはGASから取ったもので、50は溶着金属の引張強度(kgf/mm2、490MPa)から取ったものです。TRUSTARC™ MG-60は引張強度60kgf/mm2(590MPa)のソリッドワイヤとなります。

ガスシールドアーク溶接では、ワイヤがアーク熱で溶けて母材に移る際に、溶けた金属がどのような形で移行するかによって作業性や溶込みが変わります。炭酸ガス溶接において、比較的高い電流(250A以上)で溶接すると溶けた金属がワイヤ先端で大きな粒となって移行しますが、低い電流(200A以下)では溶けた金属はワイヤの先端で大きくなり、母材に接触してから移行します。前者をグロビュール移行、後者を短絡移行といいます。このような溶滴の移行する状態を「溶滴移行現象」と呼んでいます(図2)。グロビュール移行は能率は高いのの、スパッタが多くなります。短絡移行は溶込みが浅いため、薄板の溶接や全姿勢の溶接に適しています。FAMILIARC™ MG-50は大電流用に設計したワイヤで、FAMILIARC™ MG-50Tは低電流用に設計されたワイヤです。FAMILIARC™ MG-50Tの「T」は短絡移行の「タ」を取ったものです。

図2 溶滴移行形態

90年代よりロボット化が進む中で、スラグ量を少なくし連続溶接性を高めるワイヤがお客さんより求められるようになりました。FAMILIARC™ MG-50RのRは“Robot”(ロボット)の頭文字であり、スラグ量が少なくロボット溶接に適したワイヤであることを示しています。また、2010年に炭酸ガス溶接でも劇的にスパッタ量が少ないREGARC™ プロセスが開発されました。FAMILIARC™ MG-50R(N)はREGARC™ プロセスとの組合せで、その最大の特長であるアーク安定性と低スパッタを実現するソリッドワイヤです。

さて、地震国日本では鉄骨構造物の耐震性確保のため、様々なルールが設定され改正が続いています。溶接材料も例外ではなく、1995年の阪神・淡路大震災を契機に1999年にJIS Z3312「軟鋼及び高張力鋼マグ溶接ソリッドワイヤ」が改訂されました。同改正で、既存の軟鋼及び490MPa級高張力鋼用ワイヤについては適用鋼種に応じて入熱やパス間温度の範囲を設定し、またその範囲を超える大入熱及び高パス間温度で使用可能なワイヤとして引張強さ540MPa(55kgf/mm2)級高張力鋼用のワイヤYGW18・YGW19を新たに設定、追加しています。この時に誕生した溶接ワイヤがFAMILIARC™ MG-55、FAMILIARC™ MG-55Rです。更に2009年に改訂が行われ、引張強度、シャルピー衝撃性能が見直されました。引張強度は10MPa引き上げられ550MPa(56kgf/mm2)以上、シャルピー衝撃性能は70J以上が必要となります。これに対応した溶接ワイヤがFAMILIARC™ MG-56、FAMILIARC™ MG-56Rです。またREGARC™ プロセス用にFAMILIARC™ MG-56R(N)もラインナップされています。改正前のYGW18・19では520MPa級以下の鋼板が適用範囲でしたが、改正後は高性能鋼板550MPa級(耐力385MPa級)にも適用可能となりました。

なお、MG-XXの数字部分は引張強度をkgf/mm2単位で表記しています。

2. MG-SXX、MG-TXX

先に述べましたように、ガスシールドアーク溶接においてはシールドガスとして炭酸ガス、アルゴンを主体とした混合ガスを使用します。神戸製鋼の銘柄では炭酸ガス単独で使用するものはMGとなっていますが、アルゴンを主体とした混合ガスを使用するワイヤにはMG-SやMG-Tを用いています。先にグロビュール移行と短絡移行のお話をしましたが、もう一つ、スプレー移行というものがあります。比較的大電流で溶接しますと、非常に小さな溶滴になって移行します。これをスプレー移行と呼んでいます(図2)。MG-SのSはスプレー(Spray)移行から取ったもので、MG-TのTは短絡移行の意味です。実はMG-SやMG-Tといった銘柄はMGより歴史は古く、昭和40年にはCr-Mo鋼用としてTRUSTARC™ MG-S1CMなど数銘柄が開発されていました。現在MG-S、MG-Tが付く銘柄は数多くあり、ワイヤの種類によって使用するガスが異なってきますので、カタログなどで良く確認してください。

3. MIX-XX

MIXはミックスと呼びます。シールドガスに炭酸ガスとアルゴンガスを混合、ミックスして用いることがこの銘柄の由来です。

代表的銘柄はFAMILIARC™ MIX-50、FAMILIARC™ MIX-50Sです。50SのSはSpray(スプレー)の頭文字をとっています。一方、FAMILIARC™ MIX-50は低電流域用のワイヤとして開発されています。

スパッタが少ない混合ガス溶接は炭酸ガスに比べスパッタ量が少なく、またアークが広がるため幅広なビードとなります。そのため、スパッタを特に嫌い、継手の疲労強度の点から応力集中の少ない幅広なビード形状を望む自動車業界で多く使われています。亜鉛めっき鋼板で耐ピットに優れスパッタ発生量が少ないFAMILIARC™ MIX-1TS、薄板すみ肉溶接で平坦で広がりのある美麗なビードが得られ、高速溶接を可能にしたFAMILIARC™ MIX-50FSなどが自動車業界向けに開発されています。

4. SE-XX、SE-AXX

前掲のMG、MIXワイヤは銅めっきが施されています。このSEワイヤシリーズは銅めっきなしのワイヤです。SEはSmooth&Ecology(スムース&エコロジー)の頭文字を取ったものです。スムースは「銅めっき粉が発生せず、すぐれたワイヤ送給性と低スパッタを実現するワイヤ」、エコロジー「製造過程で様々な物質を使用する銅めっき工程がなく、かつ溶接中に発生する溶接ヒュームに銅めっきに由来する銅成分が含有されないため職場環境にも優しいワイヤ」の意味です(写真1、図3)。銅めっきを施すのはコンタクトチップとワイヤ間の通電性を高め、アークの安定性を向上させるためです。神戸製鋼は銅めっきに替わるワイヤの表面処理技術と新たな製造技術の組合せにより、溶接性を飛躍的に改善する技術を生み出しました。

写真1 銅めっきワイヤ使用時のめっき屑
図3 銅めっきワイヤとSE-50Tのスパッタ量比較

2000年に開発されたSEワイヤは汎用性の高いJIS規格 YGW12(FAMILIARC™ SE-50T)、YGW15(FAMILIARC™ SE-A50S)、YGW16(FAMILIARC™ SE-A50)があります。これに加え、パルスMAG溶接で薄板の溶接に適し、亜鉛電気めっき鋼板での溶接性に優れたFAMILIARC™ SE-A1TS、ビード形状を改善しスラグ量の少ないFAMILIARC™ SE-A50FSなど、MG/MIXシリーズ同様の品ぞろえをしています(表1)。SEシリーズはその優れた特性により自動車業界でも多く採用されています。なおSE-AのAは混合ガス(Ar-CO2用)であることを示しています。

表1 SEワイヤ商品群
製品名JIS Z3312溶接法適用板厚特徴
SE-50TYGW12CO2
(MAGも可)
1.0 ~ 5.0mm低電流用
SE-A50YGW16Ar+CO2ガス溶接
(パルスMAGも可)
1.0 ~ 5.0mm低電流用
SE-A50SYGW15Ar+CO2ガス溶接
(パルスMAGも可)
3.0mm~高電流用
SE-A50FSG49A0M0パルスMAG2.0 ~ 4.0mm幅広・平坦ビード、
スラグ少
SE-A1TSG49A2M16パルスMAG1.0 ~ 3.0mm耐食性鋼板・
亜鉛めっき用
(株)神戸製鋼所 溶接事業部門 営業部
営業企画室  原田 和幸

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