火事場で活躍する消火栓。
大きな水圧に耐えるよう作られ、見た感じはどっしりして、「僕が街を守っているよ!」と言わんばかりの存在感がある。
日本の消火栓はシルバー色に近い単色だが海外の水辺の旅でよく出合うものは、姿、形も違う。本体のカラーも時々異なり、取材中に出合う消火栓を撮影してきた。
マレーシアと北米で出合った消火栓を通じて水辺や街の風景そして魅力を紹介。
東マレーシアに位置するサバ州。州都「コタキナバル」は、同州の玄関口として発展を続けてきた。空の旅を楽しみながら空港に近づくと街の沖合に浮かぶ島々が眼下に見えてくる。これらの島々はツゥンク・アブドゥル・ラーマン国立公園を構成し、紺碧の海では各種マリンスポーツが楽しめる。島のリゾート施設も充実しており訪ねてみるとさっそく色鮮やかな消火栓に出合った。
海では黄色がよく似合う。それを思って色付けされたのか、このリゾートではイエロー色の消火栓に統一していた。熱帯の花に負けない色使いで島のトロピカル度アップに貢献している。
朝、カーテンを開ける。朝の陽光が室内で弾け、フレッシュな海からの空気を熱帯の花の香りとともに風が運んでくる。そして魅力は海が目の前に広がっていることだ。夜は南シナ海に沈む落日を楽しみ、島の1 日が終わる。そんなリゾートライフを満喫できるように海上に建てられた水上コテージをここでも消火栓が守っている。木製で作られた部屋が多い上、リゾート内の移動は木で作られた橋を利用する。万一火災が発生すると熱帯の暑さも手伝って火の手が早い。ゲストの滞在を24時間守っている頼もしい消火栓でもある。
離島の取材からコタキナバルに戻り、街の中心から車で半時間ほどのビーチを訪ねた。南シナ海に浮かぶ夕日の撮影のためビーチで時間を過ごしていると、馬に乗った男性が近づいてきた。話しかけると今から馬を走らせるという。農家の馬で、農作業の疲れとストレスが取れるため馬も喜び、夕暮れ時の日課だとのこと。すると本当に馬は嬉しそうに海岸線から20mほど先の海をビーチと平行して全速で走り始めた。人も動物も植物にとっても自然はストレスフリーに効果あり。インターネットの中のバーチャルの世界から離れることも大切なのだろう。特に水辺の旅はお勧め。良いリズムを体内で生み出す力がある。
「水の街」として親しまれる北米ワシントン州の街、シアトル。人口60万ほどではあるが、最近は温暖なこの地に移住する海外の人が多いという。世界的な企業である航空機関連のボーイング社、大手通販企業のアマゾン、IT企業では特に著名なマイクロソフト社、またシアトルコーヒーやスターバックスが生まれた土地でもある。滞在中、マイクロソフト本社を訪ねる機会があった。仕事ではなく、「シアトルに来たのであれば一度はマイクロソフト社の外観でも見たらいい」とお世話になった現地在住の方に連れて行ってもらった。到着すると、本社の建物のスケールにびっくり。広い。僕はどちらかというと敷地内へ続く入口の消火栓に注目。「おお、こんなところでも頑張っているではないか」とさっそくカメラを向けた。
漁業が盛んな街の水辺では漁船やヨットなどを係留する波止場によく出合う。風光明媚な場所に多く、おしゃれなレストランなどが立ち並び、シーフードを堪能できる。写真の波止場は、漁船やヨットの他、浚渫船(しゅんせつせん)など作業船も多い。目的に応じて船の形や大きさなど様々で見ているだけで楽しくなる。広い波止場を歩いていると看板が目に留まった。見ると当地で獲れる魚介類の顔ぶれがイラスト入りで紹介されていた。これまで数多くの港を訪れたがこんな紹介の仕方は初めて見る。シアトルの水辺の魅力に自信を持つ管理者の姿勢が表れていた。
シアトルから車で数時間の距離にあるドイツ村“レブンワース”。街から日帰りで行けるとのことで訪ねてみた。街全体、ドイツの雰囲気が漂い、レストランではソーセージや豚料理などドイツ定番のレストランメニューが目に飛び込んでくる。北米にはドイツの移民が多いという。定着し、コミュニティから村へそして街へ発展したのだろう。そしてここにも消火栓が。黄色い色だが、マレーシアのスマートな姿とは違い、体高は短く、太い。ソーセージの食べ過ぎではないか、と思うほどだ。しかし、パワーは間違いなくありそうだ。
この機会に、さらにワシントン州を西へと車を走らせ、シアトルの水の供給にも関係するコロンビア川を訪ねた。雄大な川だ。「この土地には昔、地球一大きな滝があった」とのことで、川に近い「Dry Falls」(乾いた滝)を訪ねたが、その滝跡の姿に唖然!落差120m全長5kmほどに及ぶ滝跡はすっかり乾き、岩肌が露出。かつては氷河が被い、その後、氷雪解けと洪水で約14,000年前に滝を形成。その後すっかり水がなくなったという。今回の水辺の旅は地球の水の壮大なドラマとの出合いもあり、ますます消火栓が愛おしくなった。