異材溶接とは、異なる材質の母材同士を溶接し、異材継手を作製することをいいます。この場合の「異なる材質」とは、金属材料が持っている物理的性質や化学的性質等を指し、同じ鋼でも、例えば高張力鋼と耐候性鋼の溶接は異材溶接となります。異材溶接において、健全な溶接継手を作製するためには、適切な溶接材料の選定と溶接条件(希釈率)の管理が必要になります。異材溶接にはさまざまな母材の組合せがありますが、本稿では比較的適用されることが多い、ステンレス鋼と炭素鋼の異材溶接を中心に解説します。
ステンレス鋼と炭素鋼・低合金鋼および、ステンレス同士の異材溶接における溶接材料の選定に関する基本的な考え方は以下のとおりです。
①継手に要求される性能(機械的性能、耐食性など)がどちらかの母材以上になるようにする。
②シェフラーの組織図などを用いて、異材継手における溶接金属の化学成分を予測し、2~20%のフェライトを含むオーステナイト鋼溶接金属が得られる溶接材料を選定する(高温割れ防止)。
③母材HAZに対するPWHTの要否を考慮して候補を選定する。
④溶接物が熱サイクルの激しい環境で使用される場合は、熱膨張係数が両母材の中間となるようにする。
⑤コストも考慮して候補を選定する。
表1 異材溶接における溶接材料の種類
具体的な母材の組合せと選定される溶接材料の組合せについては、表1に示す「神鋼溶接総合カタログ」に記載の表のとおりです。今回は表1の中から、特に適用されることが多いステンレス鋼と炭素鋼の異材溶接の説明を以下に述べます。
オーステナイト系、マルテンサイト系、フェライト系ステンレス鋼と炭素鋼の溶接には、主に309系の溶接材料を適用します。マルテンサイトによる硬化と高温割れの発生を防ぐために、溶接金属に数%のフェライトを含有させる必要があるためです。
異材溶接金属の成分は、母材および溶接材料の成分と母材希釈率から計算することができ、これを逆算して適正な溶接材料と希釈率を選定します。また、シェフラーの組織を用いることで、これらを簡便に推定することができます。例えばSUS304と軟鋼(SS400)の溶接の場合、図1に示すように、プロットされた2つの母材を結ぶ直線を相対希釈率で案分した点(同等の場合は中点)を求め、その点と溶接材料(309系)の化学組成を直線で結び、この直線を両母材の平均希釈率で案分した点が溶接金属の化学組成となります。フェライトが数%含まれるような範囲が希釈率の管理範囲と推定できます。309系の溶接材料を使用しても、溶接の際に炭素鋼側の溶込みを大きくしてしまうと、溶接金属中のフェライトが減少し、高温割れのリスクが上昇してしまうことがわかります。
なお、溶接継手が激しい熱サイクルを受ける場合や、高温で長時間使用される場合、PWHTを行う場合は、Ni基合金系の溶接材料を適用します。理由としては、Ni基合金は炭素鋼とオーステナイト系ステンレス鋼の中間の熱膨張係数であるため熱サイクルによる熱疲労が比較的起こりづらいことや、高温環境下でもC原子が拡散しづらく、母材の脱炭・浸炭現象を防止できることなどが挙げられます。PWHTの条件は、継手に要求される性能を考慮して決定します。
二相ステンレス鋼も、オーステナイト系ステンレス鋼との異材溶接と同様、主に309L系の溶接材料を適用します。表1では309LMo系を記載していますが、ステンレス鋼と低合金鋼の異材溶接の場合、309Lでは強度が不足する場合があるためです。SUS329J3Lのような汎用二相ステンレスや、SUS821L1のような省合金型二相ステンレス鋼と炭素鋼の溶接には2209系の溶接材料を適用することもできます。SUS327L1のようなスーパー二相ステンレス鋼と炭素鋼の溶接には、329J4L系の溶接材料を適用することもできます。
溶接材料選定を中心に述べましたが、実施工においては予熱、パス間温度、PWHT、溶接条件についても十分に考慮される必要があります。オーステナイト系ステンレスと炭素鋼の場合には、電気抵抗の低い炭素鋼側にアークが偏りやすいため、溶接電流が高すぎる場合には希釈が過大となり適正な溶接金属成分とはならず、低すぎる場合にはステンレス側の融合不良が生じやすくなります。
それぞれの異材溶接部位について十分な配慮を行い、確認を行うことが重要です。
〈参考文献〉
・神鋼溶接総合カタログ(2022年版),株式会社神戸製鋼所
・溶接学会・日本溶接協会編,溶接・接合技術総論,産報出版