神溶会会長
株式会社神戸製鋼所
溶接事業部門
マーケティングセンター
国内営業部長
広崎 成一
平素より、神溶会の皆さまには神鋼溶接材料、ロボットシステムの販売にご尽力を賜り誠にありがとうございます。また、日頃から神溶会活動に深いご理解とご協力を賜り、改めて厚く御礼申し上げます。
神溶会も70周年を迎え、本年5月には神戸ポートピアホテルにて神溶会70周年記念総会を開催致しました。新型コロナ影響により、直接お会いする機会も減少していた中、全国から販売店や商社の皆さまが一堂に会して久しぶりに交流を深めることができたことは、神溶会会長としても大変嬉しい思いであり、ご参加いただいた皆さまには厚く御礼申し上げます。
今回は誌面でのご報告となりますが、全国営業概況についてご説明させていただきます。
国内における、半期ごとの溶接材料需要量推移ですが、新型コロナ感染症の影響により需要は減退し、2020年上期を底に回復基調へと反転しました。2022年度は各業種において資機材の高騰や調達難により停滞局面となり、当初2022年度で需要はコロナ前に回復すると見ていましたが、2023年以降に持ち越しとなっている状況です。
建築鉄骨業種では、2020年度は新型コロナ影響により感染対策による現場閉所、テレワーク化による図面の承認遅れ、インバウンド需要の急減による宿泊施設の建設延期・中止などの混乱により、経済活動自体が縮小状態になったのは記憶に新しいところかと思います。
2021年度は堅調が続いていた首都圏の大型再開発案件をベースに物流倉庫案件や半導体工場といった案件が増えたことにより、466万トンと回復基調が鮮明となりました。
2022年度の鉄骨需要量は470万トンと微増に留まると見ています。大型再開発案件は潤沢にあり、夏以降で本格稼働することからさらに稼働は上がる一方、価格高騰の影響を受け、中小物件では、設計変更や延期・中止が相次いだことから全体では伸び悩みになると見ています。地域間やファブリケータ間での繁忙感にも濃淡がある状況です。ただ、大型再開発案件自体は2023年から2024年がピークと見ていることから、波及効果も含めて基本的には上昇トレンドが続くと見ています。
自動車業種も新型コロナウイルスの影響を大きく受けた業種です。2020年以降、自動車メーカ各社で生産停止や一時休業となるなど稼働体制に深刻な影響が出ました。
特に2021年の夏頃から表面化した車載用半導体不足の影響は深刻であり、当初は2022年に入れば解消して挽回生産に入ると見ていましたが、問題の長期化により2021年度の完成車生産台数は748万台と2020年度を下回る実績となりました。
2022年度に入っても車載用半導体不足は解消せず、中国のロックダウンでサプライチェーンの混乱が追い打ちをかけたこともあり、自動車メーカ各社で生産計画の下方修正が相次ぎました。一方、足元では調達環境が改善しつつあることから、下期からは回復基調となり、2022年度の完成車台数は800万台を超えると見ています。国内販売はバックオーダを抱えている状態であり、調達環境が改善すれば挽回生産体制に入ると見ますが、一方で車載用半導体は構造的に完全には解消しないとの見方もあり、コロナ禍前の2019年水準に戻るにはもう少し時間が掛かりそうです。
造船業種もコロナ禍の影響で、新造船商談の停滞や海運市況悪化により2020年度の受注量実績は低迷しましたが、2021年に入って受注量が急回復したことから、手持工事量も安全水準の2年を超えるまで回復しました。それに伴い、竣工量も2021年度が底とみて、2022年度は順調に回復するものと予測していました。しかし、造船ヤード自体の減少による建造能力の低下に加え、資機材の価格高騰や調達難、労働力確保、働き方改革に伴う労働時間の確保も困難になりつつあることから、思うようなピッチアップは難しい状況です。ただ、足元の受注量は順調に積み重ねている状況で、2023年度に向けて竣工量は上がってくるものと見ています。
各業種とも慢性的な課題として人手不足や熟練技能者不足を抱えており、自動化による生産性向上や高能率化といったニーズは依然高いのですが、コロナ禍という転換点もあり、ものづくりや働き方のニーズも変わりつつあります。
例えば、カーボンニュートラルとして持続可能なエネルギーへの転換が模索されていますが、革新的な技術開発とものづくり力も求められる中、溶接分野でも新たな施工技術への期待が高まってきています。
また、現在業種を問わず、資機材や部品の調達難が生産体制に深刻な影響を与えており、柔軟な稼働体制を維持するために、能率化や作業負荷軽減のニーズは重要な要素となっています。このようなニーズに対応する製品や取組みについてご紹介致します。
建築鉄骨の「人手不足・生産性向上」という課題に対し、神戸製鋼ではを搭載した新 鉄骨溶接ロボットシステムで、溶接の自動化、高能率化提案を進めます。
従来のよりもさらなる効率化を実現した新商品であり、新型溶接機RA500の新たな出力波形制御によって、電流範囲の拡大とともにスパッタの発生量を低減しています。
また、表面処理技術により送給経路の詰まりを軽減した専用ソリッドワイヤとなるMG-56R(A)を使用することでワイヤ送給性や生産性を向上させています。
は、2022年4月から販売を開始し、順調に受注を重ねております。
小型可搬型溶接ロボットとしてご好評いただいている 石松™ についても、プロセスを搭載し、さらにティーチングボックスから約5kgのケーブルをなくし取り回しが向上した、ケーブルレス 石松™ として自動化ソリューションの拡充を図っています。
石松™ の良好なハンドリング性に加えて、有線の従来型よりもワーク間の移動が楽になり、オペレータの作業効率に寄与しています。
全自動溶接機能とプロセスの低スパッタ・高能率溶接による生産性向上も実現している点を評価いただいており、順調に受注しております。
NEW MX-Z200MPは従来品よりも各電流域での低スパッタ化とアーク安定性を実現したワイヤで、特に建築分野の梁での回し溶接にてスパッタの低減が可能です。品質の良さが周知されつつあり、足元では順調に置き換えが進んでいることから、2023年以降は新製品へ一本化して全面置き換えとする予定です。
YGW11用ワイヤのNEW MG-50は高能率高品質提案として、抜群の送給性でスパッタを低減するとともに、トーチの振動(ゴツゴツ感)が少なく、溶接作業者が疲れにくいという作業性と使いやすさを追求した点が高い評価を得ています。今後もさらなる展開を計画しております。
伝統の継承として神溶会不変のテーマでもある、溶接業界を担う人材の育成です。2004年から始まったサポーター制度はその柱として、従来の制度を継続していきますが、今後新たな企画として『ビギナーサポーター講習』を実施して参ります。新入社員、新人営業マンの方の知識向上、あるいはキャリア採用の方のリスキリングを対象にしたものであり、赤カタログの見方といった基本知識から、溶接VR体験など、まずは溶接に馴染んでもらうプログラムを組み入れております。
先日、東海神溶会にて先行開催しましたが、3会場にて開催し、計70名の方々にご参加いただくなど、大変盛況となりました。コロナ禍の影響でリアル開催での講習会は減少していたこともあり、改めてメーカ開催の講習会ニーズが、高いことを再確認しました。これから各地区でも開催し、プログラムの拡充を図って参りますので、今後の展開にどうぞご期待ください。