鉄を使った構造物の製作にはほとんどの場合、アーク溶接が適用されます。そして溶接の良し悪しが構造物としての品質・安全性に大きく影響します。鋼構造物の製作の大きな部分を占めているのが溶接です。
この4月から部署異動や就職などにより新たに溶接に関わる方々は、講習会や技術書より知識を習得されると思います。一般の講習会や入門書は、基本事項を系統だてて説明しているため、どうしても理論が先行してしまい溶接初心者には難解なものが多いように感じます。
そこで、本稿では、従来の技術書が「~しなくてはならない」という視点から説明されているのに対し、「~してはいけない=ご法度!」という実践面を重視し、かつやさしい言葉と図表で説明して溶接の実際を知る手引書になればとの思いでまとめました。
溶接初心者や指導書として溶接に携わる皆様にすぐに役立つ知識を提供して参ります。
溶接作業においては、感電、ヤケド、強い光線による目の障害、ヒュームによる発熱や頭痛、鋼板の落下による怪我などの災害が発生する可能性があります。またスパッタ、アークなどが、火災や爆発を誘発することなどにも注意が必要です。
いずれも原因がはっきりしており、適切な手段により災害を未然に防ぐことができます。ヘルメット、防じんマスク、(保護)メガネ、保護面、手袋(溶接用革手袋)、安全靴などの保護具なしで溶接をしてはいけません。
神戸製鋼所の溶接総合カタログ(通称「赤カタ」)に、「溶接の安全に関するご注意」として溶接時の注意事項がくわしく記載されています。溶接材料ご使用前に必ずお読みください。
*「赤カタ」はホームページからご覧いただくか、溶接材料を購入されている代理店にご用命下さい。
http://www.kobelco.co.jp/welding/catalog/index.html
強烈なアーク光線、中でも紫外線は目と皮膚に障害を与えます。目の障害は角膜部の「電光性眼炎」と呼ばれ、夜中に強烈なゴロゴロ感が襲いますし、皮膚は重度の日焼け状態となります。また、アーク光線の強さは溶接法によって異なります。被覆アーク溶接棒よりも、マグ溶接やTIG溶接の方が強くなります。
正しい遮光ガラスの使用や、皮膚をできるだけ露出しないことが大切です。また、目の障害の場合自分が出したアーク光線より、隣近所から来る光線が原因となるケースが多く見受けられます。後方などアーク面の隙間から入ってくるアーク光には注意が必要です。
なお、夜中にやってくる目のゴロゴロ感は、すぐに目を冷水湿布すると次第に楽になります。ただ、不快感は翌日まで残ります。はじめてこの症状が出た際は、「目がダメになった」と思うほど痛いものです。しかし必ず治るので、あわてないことです。
溶接の際に発生する煙(小さい金属粒子)のことを“ヒューム” といいます。発生するヒュームの量、形、大きさは溶接法によって異なります。
ヒュームを直接吸い込むことによって発熱や頭痛の他、長期的にはじん肺などの障害が出ます。
その対策としては、全体換気、局所換気、マスクなど呼吸用保護具着用などが必須です。また、母材に付着した塗料や亜鉛めっきが溶接によって気化し発生したガスにも注意が必要です。