解説コーナー | 試験・調査報告

ステレオ画像相関法について


1.はじめに

溶接構造物の製造工程において生じる溶接変形は、製品の寸法精度や外観品質を低下させるため、しばしば問題となります。建設機械や造船業界をはじめ、ものづくりメーカにおいては、溶接変形の手直しによる負荷軽減が積年の課題となっており、さまざまな対策が取られています。具体的には、溶接入熱を小さくするほか、継手形状や溶接順序、溶接方法を変更するなどの対策が有効と知られており1)、変形量を計測しながら最適な施工法を探索することが必要となります。

変形量を計測する手法としては、スケールや変位計を用いたアナログな測定法や、門型や多関節アームを用いた三次元座標測定が代表的なものになりますが、これらは局所的なデータに限定されてしまい、全体的な変形挙動や、時間的な変化をとらえることが困難です。

そこで今回は、対象物の変形量を広範囲にわたって連続的に計測することが可能なステレオ画像相関法について紹介します。

2.ステレオ画像相関法の特徴

ステレオ画像相関法は、カメラを2台使用して対象物の3次元形状を計測する手法です。図1に示すように、対象物に対し塗料などでランダムパターンを付与し、離れた位置から2台のカメラで撮影します。得られた左右のステレオ画像を用いて、三角測量の原理に基づいて変形量を求めます。

図1 ステレオ画像相関法のシステム概要

図2に示すように、溶接前の状態を基準(変形ゼロ)として、以降の撮影画像と比較し、ランダムパターンの移動量を解析することで溶接における3次元変形挙動を導出します。このとき、実験対象と同一の撮影配置でキャリブレーションボードを撮影し、カメラレンズに起因する像の歪み補正および画像上と実空間での変形量の対応付けを行うことで、補正処理を行います2)

図2 ステレオ画像相関法の解析手順

代表的な計測手法との比較を表1に示しますが、ステレオ画像相関法は対象物全体の時間的な変化を計測可能なことが一つの強みです。対象物の変形量を広範囲にわたって連続的に取得することで、変形メカニズムの把握や溶接変形シミュレーションの妥当性評価などに活用できます。

表1 各種計測手法の比較
計測手法スケール・ノギスレーザ変位計3次元測定機(接触式)3Dスキャナステレオ画像相関法
測定範囲点・面(局所)全体(粗い)全体全体(死角は×)
測定データz, dzz, dzx, y, z
dx, dy, dz
x, y, z
(dx, dy, dz)*
x, y, z
dx, dy, dz
時間変化×××
操作性××

※2つの3次元点群を重ね合わせた差分を出力するため、不確実なデータとなる可能性あり


3.適用事例

実際にステレオ画像相関法を用いた溶接変形計測を行った事例を紹介します。板厚3.2 mm、500 mm角のSS400鋼板上に異なる順序で3本のビードオン溶接を行い、各パス溶接直後および拘束解除後のタイミングで計測を行いました。紙面奥行方向(板面に対して法線方向)の変形計測結果を、図3に示します。本手法は画像から変形量を取得する手法であるため、撮影した対象物上に変位コンター図を重ねることが可能であり、変形箇所の把握が容易であることも一つの利点として挙げられます。

図3で時間的な変形挙動を見ると、溶接線Bの溶接時に角変形が生じていることが確認できます。これは溶接線Bが鋼板の中央付近であり、拘束力が働きづらいことが原因であると推察されます。また、溶接順序の違いを対比すると最終的な変形量が異なることも確認できます。これは、ABCの順番では、Bを溶接した後に、Cを溶接したことで、Bで発生した引張残留応力が解放され、角変形が大きくなったことが一因と推察されます。

図3 ビードオンプレート溶接における溶接順序が及ぼす変形への影響


4.おわりに

ステレオ画像相関法について特徴および適用事例を紹介させていただきました。繰り返しになりますが、本測定法の特徴は、これまで困難だった対象物全体の溶接変形を連続的に3次元評価できることです。溶接順序が溶接変形に与える影響を確認することや、FEM解析の妥当性検証にぜひご活用ください。

最後に、本稿が溶接変形計測について皆様の一助となれば幸いです。ご相談がございましたら、お気軽にコベルコ溶接テクノまでご連絡ください。


<参考文献>

1) 寺崎 俊夫,溶接変形と残留応力,溶接学会誌,第78巻,2号,2009年,p139-146

2) 河村ら,デジタル画像相関法による溶接変形の計測,日本船舶海洋工学会講演会論文集,第7K号,2008年,p113-116


コベルコ溶接テクノ(株)
ソリューション技術部 技術開発室
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中村 敬人

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