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硫化物応力腐食割れ

硫化物応力腐食割れ( SSCC;Sulphide Stress Corrosion Cracking )は油井や天然ガス井などのサワーガス環境(H2S含有環境)において発生する割れ現象です。油井・天然ガス井環境のような塩化物イオンを含む酸性環境下では、鋼表面における腐食反応が促進されます。腐食反応の過程で水素が発生し(図1①)、鋼表面への吸着を経て、鋼中へ侵入します(図1②)。水素は鋼中の応力集中部へ拡散し(図1③)、水素ぜい化(水素により材料が脆くなる現象)を引きおこし、残留応力や内圧による引張応力の作用で割れ発生の可能性が生じます(図1④)。また、水素ぜい化は侵入した水素量が多いほど顕著になります。H2Sが鋼表面付近に存在するとH2分子となる水素結合を阻害すると考えられており、通常の腐食反応による水素侵入量よりも多くの量が侵入し(鋼中へは原子状で侵入するため、相対的に侵入量が増加する)、水素ぜい化を助長させます。


① 腐食反応
① 腐食反応
② 侵入・結合
② 侵入・結合

③ 拡散・凝集
③ 拡散・凝集
④ 割れ
④ 割れ

図1 SSCC機構 概略図



溶接部におけるSSCCへの対策は硬度・付加応力・水素量のいずれかにおいて割れ臨界点を下回ることで達成されます。硬度については高張力鋼の使用を避ける方法が一般的です。たとえば、NACE MR0175では、溶接部の硬さをHRC22以下とすることが要求されています。付加応力については、残留応力を低減させるための溶接後熱処理( PWHT;Post Weld HeatTreatment)の実施が挙げられます。ただし、PWHTにより溶接部の機械性能が劣化することがあり、耐割れ性と溶接部の機械性能の両立が必要となります。水素量については、耐食性に優れる材料の使用や防食が挙げられますが、他2つの対策よりも多くのコストを要することがあります。また、防食対象をカソードとするカソード電気防食は水素発生を伴うことから、かえって割れのリスクを高めることになります。


参考文献
社団法人腐食防食協会編 (1993)『 材料環境学入門』 丸善
株式会社 pp.45-48
社団法人溶接学会編 (2003)『 第2版 溶接・接合便覧』 丸善
株式会社 pp.849-850
NACE Standard MR0175-95


(株)神戸製鋼所 溶接事業部門
技術センター 溶接開発部 秋山 亮


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