山々と湖の国、スイス。レマン湖を望む小さな街で出合った消火栓。
その風格というか、「僕がこの街を守っているよ!」とでも言わんばかりの迫力ある姿に、「安全な水辺の旅をよろしくお願いします。」と一礼。
さっそく出合った思わぬ被写体を通じて、標高1,000mに近い山々の沢から流れ出た水を追って、レマン湖までの「水の恵み」を追った。
ジャズフェスティバルなど音楽や様々な芸術イベントの開催で有名な街「モントルー」。この街の郊外で出合った消火栓は一味違っていた。黒のボディと白いストライプが入り、姿全体を見ると火災時のみの対応だけでなく、街全体のそしてレマン湖の「水」と「恵み」をも守ってくれているような存在感がある。消火栓から伝わる強いメッセージを胸に、湖畔に向け坂を下り始める。周辺に広がるブドウ畑。ブドウの房にレンズを向けると強い太陽の光でそれぞれの粒が透けて見える。
スイス山岳地方からの雪解け水や地表に流れ出た清らかな水は、やがてモントルー周辺のブドウ畑に達し農作物を潤しそして街へ。水は止まらない。やがて街の蛇口から出る水は人々の生活を支える。
水辺の街は広大なレマン湖と山腹に広がるブドウ畑に挟まれ、湖畔に沿って広がっていた。恵まれた立地条件の中で育つブドウは質の高いワインを産する。生産量が少ない上、味が良いこともあり海外への輸出は少なく、殆どが地元や国内そして海外から訪れる観光客の消費で終わるという。農家の方に地元のワインが美味しい理由を訊ねてみた。
次のような返事が返ってきた。「畑は4つの太陽のおかげで良いブドウが育つのです。それは、午前中の太陽、午後の太陽、そして夕方の斜光です。」正午近くの太陽は真上にあり暑く、確かに夕方の斜光はきつい。それでは、「最後の太陽は?」と訊くと、農夫は、胸をトントンと軽く叩きながら、「私たち、農夫のハートですよ!」と返してきた。なるほど、愛情をたっぷり注ぎ、太陽や水など自然の条件に恵まれてブドウが育ち、良質のワインが生まれるのだ。
レマン湖畔の街々への主な移動は、鉄道とそれぞれの港をクルージングで訪ねる方法がある。湖と山々の雄大な景色、ブドウ畑、おしゃれな街並みを湖上から楽しみながらの船旅は最高だ。太陽と青い空とブルーレイク。白い航跡を後にしながら進む船の上で一時を楽しむゲスト達。ワインを飲みながらのランチは好評で、特に地元の魚料理が人気。山から流れる水は最後にレマン湖へとたどり着き、魚や水草など湖の生命を育てる。レマン湖で獲れる魚の定番と言えば、「フィレ・ド・ペルシェ」(英語名パーチ、スズキの仲間)。フライにすると白身の肉質でサクサクとした食感が人気。ワインにも相性が良く、湖上クルージングのランチではフレンチポテトとともに盛り付けられていた。
モントルーの街で出合った消火栓。湖畔の街を火災から、そして、「水の恵み」をも守る強いメッセージを得たおかげで撮影も順調に進み、一応の成果を見たものの一つ気がかりな被写体があった。クルーズで食した魚を取材したい思いが残ったのだ。地元の人に聞くと、「近くのルツェルン湖で釣り人に出合えるよ!」とのこと。この機会にさっそく、レマン湖からルツェルン湖へ移動することに。
幸い、電車で近い距離に街と同名のルツェルン湖はあった。さっそく、街を抜けると湖に接するロイス川の水辺で数人の釣人に出合った。
ロッド(竿)は太目で、リールがまたでっかい。円形のリールで、狙っている魚が大きいことを意味する。
「釣れますか?」と声をかけてみる。気持ちよく言葉を返してくれ、しばらく水辺談義が続く。釣果のほどは芳しくなく、ボウズ。餌を見せてもらうとビックリ。なんとチーズを使っていた。さすが、チーズ王国、スイス。結局、日が沈むまでの間、釣果はゼロで、釣り人も納竿。僕も、カメラをバックに戻し、ルツェルンの街で予約した宿泊先へ。釣り餌がチーズ。スイスらしい。水辺の旅はいつも驚きと発見がある。