鉄骨業界では、建築物件によってAW検定資格が要求されています。AW(Architectural Weldingの頭文字)検定とは、建築物の安全性を保つために設計事務所・建設会社(ゼネコン)が主体となり組織された、AW検定協議会で運営されています。AW検定協議会が組織されるまでは、建築物件ごとに技量付加試験が行われていましたが、技量付加試験内容を統一して工事監督や施工管理の省略化を図ることを主目的に発足しました。AW検定試験資格は、溶接全体をカバーするJIS技量検定に対して、建築鉄骨溶接独自の資格と言えます。
AW検定試験は年間1回行われており、受験する各会社で実施します。
①4~5月頃:申込み
②7~9月頃:本試験
③9~12月頃:追試験(本試験で不合格となった種目)
④3月末頃:合格通知が届く
以上の流れとなっています。
資格の有効期限はJIS技量検定と同様で、3年ごとに更新試験が実施されます。
AW検定試験は、工場溶接試験・工事現場溶接試験・鋼管溶接試験・ロボット溶接オペレーター試験があります(表1にAW検定試験概要参照)。AW検定の受験資格は、JIS技量検定の中板か厚板の下向き(表2参照)の取得が最低限必要となります。AW検定の受験種目によってJIS技量検定の取得資格が異なりますので、AW検定協議会から発行している試験運用規定にてご確認ください。
今回は、AW検定の中でも基本的な種目ではありますが、追試験になるケースが多い工場溶接鋼製エンドタブすみ肉溶接(以下A種と示す)について説明します。
種目 | 項目 | 記号 | 板厚(mm) | 溶接方法 | 溶接条件 | 試験項目 | |
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工場溶接 | 鋼製エンドタブ | 完全溶込み溶接 | S種 | 19 | 半自動*1 | 下向(F) 横向(H) | 外観試験 放射線透過試験 マクロ試験 曲げ試験 |
すみ肉溶接 | A種 | 9 | 半自動 手棒*2 | 水平(H) 立向(V) | 外観試験 マクロ試験 曲げ試験 | ||
代替エンドタブ | 完全溶込み溶接 | S種 | 19 | 半自動 | 下向(F) 横向(H) | 外観試験 放射線透過試験 マクロ試験 | |
工場現場溶接 | 鋼製エンドタブ | 完全溶込み溶接 | S種G類 | 19 | 半自動 | 下向(F) 横向(H) 立向(V) | 外観試験 放射線透過試験 マクロ試験 曲げ試験 |
代替エンドタブ | 完全溶込み溶接 | S種D類 | 19 | 半自動 ノーガス*3 | 下向(F) 横向(H) | 外観試験 放射線透過試験 マクロ試験 | |
鋼管溶接 | 管の直管継手 | V形完全溶込み溶接 | - | 216.3φ x 8.2 | 半自動 手棒 | 固定管水平 | 外観試験 放射線透過試験 マクロ試験 曲げ試験 |
分岐継手 | 完全溶込み一部すみ肉溶接 | - | 主管216.3φ x 8.2 | 半自動 手棒 | 主管水平 | 外観試験 マクロ試験 | |
分岐管165.2φ × 7.1 | |||||||
ロボット溶接オペレーター | ロボット溶接施工要領書 | - | - | - | - | - | 書類審査 |
平板十字継手溶接 | 平板 | RT | 19 | - | 下向(F) 横向(H) 立向 | 外観試験 超音波探傷検査 引張試験 | |
角形鋼管継手溶接 | 角形鋼管(400 x 400) | RC | 19 | - | 下向(F) | マクロ試験 曲げ試験 衝撃試験 | |
円形鋼管継手溶接 | 円形鋼管(500φ) | RP | 19 | ||||
*1 半自動:半自動アーク溶接の略 *2 手棒:被覆アーク溶接の略 *3 ノーガス:セルフシールドアーク溶接の略 |
種別記号 | |
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AW検定 受験資格 | SA-2F・SA-3F SN-2F・SN-3F |
A種免除資格 | A-2F・A-2V・A-2H N-2F・N-2V・N-2H A-3F・A-3V・A-3H N-3F・N-3V・N-3H |
A種は、JIS技量検定の被覆アーク溶接資格(表2参照)を取得することで免除されます。事前にJIS技量検定を取得されるか、A種から受験されるかは時間的な余裕や費用、合格率などを考慮して選択してください。
A種は、図1に示す通り板厚9mmの重ね継手です。水平すみ肉溶接(記号:H)と立向き溶接(記号:V)を、脚長5.5~8.5mmの範囲で規定されていますので、脚長は7mm程度の意識を持って溶接します。練習では脚長の感覚を早期に掴めるよう、罫書き線を入れて行うと効果的です。2005年までは被覆アーク溶接に限定された課題でしたので、立向き・水平すみ肉共にアークスタート側から約120mmで棒継ぎを行えることが規定されています。現在では、半自動アーク溶接も使用可能となりましたが、両溶接方法共にビード継ぎを行う時の注意事項があります。水平すみ肉溶接は、左から行うと棒継ぎ位置が立向き溶接部と同じ個所になりますが、右から行うと裏曲げ試験位置と重なるため、必ず左側からアークスタートしてください。半自動アーク溶接ではビード継ぎを実施しなくても構いませんが、溶接長が長く回し溶接部のアンダカットの防止を考慮して、ビード継ぎ位置で一度アークを停止させて溶接姿勢を立て直し、ビード継ぎから再溶接された方が賢明です。
・推奨溶材: | FAMILIARC™ DW-100V |
・溶接条件: | (前半)本溶接条件を160A-23±2V クレータ条件を230A-25±2V (後半)本溶接条件を230A-25±2V クレータ条件を160A-23±2V |
に設定します。
①アークスタートは、向かって左側の回し溶接部(角部から25mm以上)から行い、ノコギリ状のウィービング(図2参照)にて溶接します。(160A)
②角部は、直接アークを当てると角落ちやアンダカットとなるので、トーチ角度を立たせて溶接します。脚長規定内で大きく外側へ回り込ませながらトーチを長手方向側に倒します。
③直線部は、クレータ電流(230A)に切替えて前後もしくはノコギリ状のウィービングにて溶接します。前方へアークを移動させた時にルート部を確実に溶かすよう運棒させ、後退角を保持しながら棒継ぎ位置まで溶接します。
④後半は前半とは逆に、本溶接条件(230A)に変更します。態勢を整えた後ビード継ぎを行い、角部手前でクレータ条件(160A)に切替え25mm以上の回し溶接を行います(※要領は②角部と同様)。
ソリッドワイヤの場合は、FAMILIARC™ SE-50Tを推奨します。溶接条件は同様の条件で行えますが、電圧は若干低目に設定してください(※電圧は、溶接機やケーブル径、長さによって異なりますので注意ください)。
・溶接材料: | FAMILIARC™ DW-100V |
・溶接条件: | 200A-25±2V |
ワイヤの狙い位置は、ルート部を狙います。トーチ角度は60~70°程度として、前進角5~10°程度付けて溶接します(図2参照)。運棒はセミウィービングを行い、ビード継ぎをせずに最後まで溶接します。
ソリッドワイヤの場合は、FAMILIARC™ SE-50Tを推奨します。溶接条件は120A±10A-20±2Vで行い、ウィービングはルートをしっかり溶かすようデルタ運棒(図2参照)で行います。
外観試験は、外観検査測定位置の上鋼板端部より約25mm(図1参照)で、脚長5.5~8.5mmの範囲に入っているかを確認します。水平すみ肉は、回し部分の溶接長が25mm以上あるか、角部の溶け落ちは無いかなどを確認します。外観試験の規定を表3に示します。外観試験が合格後、充填溶接を行い機械試験となります。マクロ試験と裏曲げ試験がありますので、ルート部の溶込み量が重要となります。練習時に溶込み状況の確認を実施してください。
位置 | 判定基準 |
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脚長 | 水平・立向上鋼板端部から25mm で、5.5~8.5mm。 過大、過小の場合は、測定位置を±5mm 程度ずらす。 |
直線・回し部 | 著しいアンダカット(角落ちも含む) |
ビードの著しい不整 | |
著しいオーバラップ | |
割れ・ピットの発生 | |
回し溶接が25mmに満たない場合及び連続していない場合 | |
対象外 | 規定位置での棒継ぎ |
AW検定は、各種検定の中でも難易度の高い試験の1つです。合格の秘訣は練習と練習後の外観・溶込み状況の確認を行うことです。また、トーチ操作が大きい水平すみ肉では、被り面の使用が有効になります。
弊社CSグループでは溶接のアドバイスも実施しておりますので、お気軽にご相談ください。A種試験で本資料がお役に立てれば幸いです。