解説コーナー | 試験・調査報告

低ひずみ溶接接合プロセスの検討


1. はじめに

溶融溶接は、局所加熱や凝固収縮などにより溶接構造物にさまざまな変形を発生させます。読者の皆様も多くの工夫を施され、溶接変形を抑えられていることと思います。

溶接変形を低減する方策は多岐にわたっておりますが、主な観点は、以下に示します4つがあげられます。


①変形要因の低減

溶接変形を引き起こす溶接金属部を調整する方策であり、設計面からの工夫(溶接箇所の低減、開先構造面の改善など)や施工面からの工夫(溶融体積の低減、入熱の低減など)があります。


②逆ひずみの付加

あらかじめ溶接変形を予測して母材を配置し、溶接後に所望の寸法に収める方策です。


③変形の拘束

溶接施工時に拘束板などを使用して、溶接変形を抑え込む方策です。


④ひずみ矯正

溶接により生じたひずみを加熱、塑性加工で修正する方策です。


本稿の溶接変形低減の内容としては、①変形要因の低減のうち、施工面からの工夫であります溶融体積の低減、入熱の低減の方策に関して弊社で検討した例(薄板分野)を簡単にご紹介いたします。

2. 溶接変形低減の施工面からの工夫

溶接変形低減の施工面からの工夫は、溶融体積の低減と入熱の低減が考えられ、表1に溶接方法を比較しながら示します。表1に示しますように溶融体積を低減する溶接方法としては、高エネルギー密度溶接、狭開先溶接もしくは溶融させない摩擦圧接、摩擦攪拌接合(FSW)などがあります。また、入熱の低減としては、CMT溶接(Cold Metal Transfer:フロニアス社(愛知産業(株))、レーザ溶接などがあります。

表2に一般的な溶接方法であるTIG溶接、MAG/MIG溶接と低入熱溶接であるCMT溶接、レーザ溶接の得失を比較して示します。入熱を抑えるCMT溶接、レーザ溶接は、溶接変形の低減にはある一定の効果は認められますが、設備コストが増加する傾向があります。

表1 溶接変形低減の施工面からの工夫
表1 溶接変形低減の施工面からの工夫
表2 一般的な溶接方法(TIG溶接、MAG/MIG溶接)と低入熱溶接(CMT溶接、レーザ溶接)の得失比較
表2 一般的な溶接方法(TIG溶接、MAG/MIG溶接)と低入熱溶接(CMT溶接、レーザ溶接)の得失比較


3. 溶接変形低減施工の例

弊社で検討いたしました溶接変形を低減する施工面からの工夫を薄板分野の2つ例をあげてご紹介します。


①アルミ薄板(1.0 mmt)突合せ溶接

この比較では、TIG溶接からCMT溶接に置き換えた場合の効果を示します。図1に溶接方法の置き換えによる狙いを示します。予想される状況は、溶融体積の減少と溶接電流・電圧の減少と溶接速度の増加による入熱の減少です。これらの溶接状況変化により、変形低減および高能率化が図れるものと推測されます。図2にこれらの溶接により得られた溶接継手試験片を比較した結果を示します。溶融体積の減少、入熱低減により、溶接変形が半減する結果が得られました。

図1 アルミ薄板(1.0mm<sup>t</sup>)突合せ溶接(TIG⇒CMTの置換)
図1 アルミ薄板(1.0mmt)突合せ溶接
(TIG⇒CMTの置換)
図2 アルミ薄板(1.0mm<sup>t</sup>)突合せ溶接(継手の変形比較)
図2 アルミ薄板(1.0mmt
突合せ溶接(継手の変形比較)


②薄鋼板(1.0 mmt)のフレア継手溶接

薄鋼板のフレア継手部はレーザ溶接で一般的には実施されています。いっぽう、レーザ溶接は設備コストが高額のため、この比較では、レーザ溶接と同等の低ひずみ溶接が、低コストで得られる可能性があるCMTブレーズ溶接(フロニアス社(愛知産業(株)))での検討結果をご紹介します。図3に溶接方法の置換による狙いを示します。狙いでは溶融体積は同等に抑えることです。図4に得られた溶接部の断面マクロ組織を示します。レーザ溶接と同等のなめらかな溶接部が形成でき置換の可能性があることが確認できました。

図3 薄鋼板(1.0mmt)フレア継手溶接(レーザ⇒CMTブレーズの置換)
図3 薄鋼板(1.0mmt)フレア継手溶接
(レーザ⇒CMTブレーズの置換)
図4 薄鋼板(1.0mm<sup>t</sup>)フレア継手溶接状況
図4 薄鋼板(1.0mmt)フレア継手溶接状況


4. おわりに

今回、低ひずみ溶接接合プロセスの検討と題しまして、変形要因の低減(溶融体積の低減、入熱の低減)の観点で低ひずみ化の方策と溶接施工例を紹介させて頂きました。いっぽうで、皆様が直面している溶接変形の課題は、複雑でかつ多岐にわたり、溶接方法、溶接変形抑制方法も適材適所を選択し適用していかなければならないと思われます。

本稿で紹介いたしました内容は極々一部でしかありませんが、微力ながら皆様の一助になれば幸いです。また、上述以外の方策に関しましても弊社にご相談いただければと思っております。是非よろしくお願い申し上げます。

神鋼溶接サービス(株) 技術調査部 技術室
江口 法孝

<参考文献>
・溶接学会編:溶接・接合技術特論
・愛知産業株式会社ホームページ


iPhone/iPad、Android用デジタルカタログ

<専用ビューアが必要です>
スマートフォン、タブレットの方は、専用ビューアをダウンロードしてから閲覧ください。

PAGE TOP