解説コーナー | 試験・調査報告

腐食部の調査


1. 腐食とは

弊社SWSでは破損品調査業務を行っております。破損品調査というのは、破損した機器、部品などを受領し、破損した原因を調べる仕事です。破損原因は多岐にわたりますが、おおまかに分けると、力学的な損傷(疲労破壊、脆性破壊など)が全体の7割、残りの3割は腐食による損傷です。今回は、後者の腐食損傷について説明いたします。

腐食というと何が思い浮かぶでしょうか? 身の回りで最も身近な例は鉄の錆かと思います。金属は基本的に水に弱く、特に酸性の溶液にさらされると金属が溶けてしまいます。みなさんも小学校の理科の実験で見た経験があるかと思います。

理科の実験のように数分で反応が進むものなら分かりやすいのですが、実際の構造物では非常に遅い速度で腐食反応が進行します。また、材質によっても腐食が進む速度に大きな差が出てきます。下の図はおおまかに示した材料の耐食性の順番です。一般的な“鉄” である炭素鋼に比べて、ステンレス、チタンなどは耐食性が非常に高い材料ですが、耐食性が高くなるに連れて価格も高くなってしまいます。したがって、使用する環境に耐えられる、かつ過剰な耐食性を有さない材料を選定することが大切になります。

2. 腐食形態

腐食には多数のパターンが有り、そのパターンのことを「腐食形態」と呼びます。腐食と言ってもその原因は様々ですし、材料と使用されている環境の組み合わせによって、起こりうる腐食形態が決まってきます。代表的な腐食形態を、表1に示します。

表1 代表的な腐食形態
腐食形態形状代表的な材料・腐食環境
孔食 点状の腐食孔が開く
ステンレス鋼-Clイオン銅管-水道水など
すきま腐食 すきま(数十μmレベル)に減肉が発生する
ステンレス鋼-Clイオン、溶存酸素
応力腐食割れ 細かい枝分かれを多数伴った割れ
ステンレス鋼-Clイオン+応力
エロージョン・コロージョン 表面が削り取られたような形状
銅など-速い流速+腐食環境
粒界腐食 結晶粒界に沿って腐食が進行する
ステンレス鋼-Clイオン溶接などの熱による“鋭敏化”の要因が大きい

3. 腐食調査の一例

SWSで腐食部の損傷調査を行う際は、電子顕微鏡を用いる腐食部の観察および元素分析や断面観察を行い、そこで観察される形状的要因、想定される腐食環境を総合的に加味して、腐食が発生した原因を特定します。

例として、ステンレス鋼の腐食部の調査例を紹介します。実際の試験結果として、断面観察写真を掲載します。

断面観察は、実際に腐食損傷が発生している箇所を切断し、鏡面研磨、エッチングという工程で試料を作ります。写真1~2に示した結果では、たこつぼ型(入口が狭く、中で広がっている形状)の腐食孔が観察できました。このような腐食孔は、ステンレスの“孔食” でよく見られる形態であることから、この検体については孔食による損傷が発生していると断定できます。

▲写真1 ステンレスの孔食(50倍撮影)
▲写真2 ステンレスの孔食(400倍撮影)

また、他の例として、写真3~4に粒界腐食の例を紹介します。ステンレス鋼の結晶粒界に沿って腐食が進行していることから、粒界腐食による損傷と断定できます。このような粒界腐食は、高温が加わったことによる「鋭敏化」に起因して起こることが多いことから、材料に加わった熱の履歴などから、腐食に繋がる要因を推定します。

▲写真3 ステンレスの
粒界腐食(50倍撮影)
▲写真4 ステンレスの
粒界腐食(200倍撮影)

実際の調査においては、これらの断面観察に加えて、SEM-EDX分析で腐食生成物に含まれている元素を調べ、どのような環境によって腐食が発生したのか推定することもあります。

4. 腐食試験について

最後に、腐食試験について説明します。腐食試験とは、JISやASTMなどの規格で決められた溶液中で材料の耐食性を定量的に測る試験です。腐食性の強い溶液を用いたり、試験時の温度を上げたりして、実際に使用する環境よりも厳しい環境での耐食性を調べるという、いわゆる加速試験的な試験です。

代表的な腐食試験を表2に示します。主にステンレス鋼の腐食試験を実施し、材料の耐食性を評価しています。特に溶接部は、母材とは異なる成分組成や金属組織になるため、母材よりも耐食性が劣ってしまうことがあり、耐食性の定量的な評価が重要になります。

表2 腐食試験の一例
試験JIS規格
ASTM規格
目的測定項目
ステンレス鋼のしゅう酸エッチング試験 G 0571
A262-A
・鋭敏化の程度を調べる。 ・粒界のエッチング状態、ピット状態
ステンレス鋼の65%硝酸腐食試験方法(ヒューイ試験) G 0573
A262-C
・粒界腐食の程度を調べる。 ・腐食減量
ステンレス鋼の硫酸・硫酸銅腐食試験方法(シュトラウス試験) G 0575
A262-E
・粒界腐食の程度を調べる。 ・腐食後、曲げ試験を行い割れの有無を調べる
ステンレス鋼の塩化鉄腐食試験方法 -
G48-E
・耐孔食性を調べる。 ・塩化鉄水溶液中における腐食減量、孔食深さを測定
ステンレス鋼の孔食発生臨界温度試験 -
G48-A
・耐孔食性を調べる。 ・塩化鉄水溶液中で温度を変化し、孔食発生温度を測定
神鋼溶接サービス(株) 技術調査部 技術室
志田 康一

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